ユナイテッドアローズ栗野宏文が「農業」に注目する理由

ユナイテッド・アローズ上級顧問の栗野宏文氏


安西:フランスではスタートアップに期待されるビジネスボリュームが他の国より高い。それがスタートアップをつぶすのではないかと思います。一方、イタリアはラグジュアリーの古いタイプと新しいタイプが共存しやすいです。

両国にはそれぞれ高級ブランドの企業が集まる組織、アルタガンマ(伊)とコルベール委員会(仏)がありますが、その差を見ても思います。アルタガンマは、ボストン・コンサルティングやベイン・アンド・カンパニーに市場レポートを作成してもらって活動していますが、コルベール委員会はLVMHなどのコングロマリット自身の予算で市場調査をします。つまり、ラグジュアリー・マーケットの市場レポートが、イタリアでは公共財、フランスでは私有的なものなのでオープンにされていないのです。

イタリアにはフランスのラグジュアリーの下請けもあるので、ブランドをどう作るかというノウハウもあります。そういうところからスタートアップがうまれやすいですし、ノウハウを提供することもできます。中央ヨーロッパにも、日本に対しても提供できます。

大雑把に言って、年商1000億円くらいまでの間はイタリアから学んだ方がいいと思っています。ブルガリがLVMHに買収されたときは、1200億円でした。少なくとも何百億円ビジネスに育てるにはフランスを見ないほうがいいのです。でも日本ではみなフランスを見てしまう(笑)。


LVMHは2011年にブルガリを買収した(Getty Images)

中野:そもそもなぜ日本では、アルタガンマやコルベール委員会のような組織ができないのでしょう?

栗野:日本でも組織はありますよね。でも、人間国宝的な方向ですね。あとは業界の利権団体。「認証してあげるよ、だから会費ちょうだいね」というタイプの組織です。おじさんたちが会費を集めて認証団体として権威になろうとする感じに見えます。

中野:組織がいくつか点在し、少し盛り上がっては雲散霧消していく、というパターンが多いように見えます。

栗野:日本は権威主義だから組織を創るのが好きなのでしょうね。権威主義だから続けるのも難しい。いまヨーロッパでものづくりができる国といえばイタリア、スペインくらいでしょうか。フランスはといえば、実はメイド・イン・フランスがない。自分の手を汚さないことが素晴らしいことだと思っている節があります。

コロナ禍に入って、フランスの識者が言っていました。「自分たちは産業の空洞化を看過してきた」と。日本はマスクとガウンを作ることができたために、縫製工場が生き延びることができました。アメリカはマスクを中国から待つしかありませんでした。フランスもです。「ものをつくることをばかにしたら、こんなことになった」とフランス人自ら省みています。

安西:コルベール委員会とアルタガンマの違いでいえば、コルベール委員会もハンドクラフトに敬意はあるのです。ただ、意見団体的になっています。

ファッションが伝えるメッセージが変化しつつある


中野:そろそろまとめに入りたいのですが、これからのラグジュアリーはどういうものになっていくと思われますか? 古いラグジュアリーはどう変わっていくのでしょう?

安西:補足すると、古いラグジュアリーは中国を大きなマーケットと見ており、その3〜4割が中国での売り上げです。中国発のラグジュアリーはナショナリスティックになるだろうと予測されるので、そのほかの部分でおうかがいしたいです。
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文=中野香織

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