バス釣り、カヌー、酒と自然と人に酔う

全国生産量の9割を占める鋳物の町・富山県高岡市で、伝統の技法をもとに独創的な着色技術を開発し、金属発色の可能性を広げた折井宏司。カヌーや釣りなどの趣味や、異業種交流の魅力について聞いた。


「お前が家業を継がなければ、高岡の400年の伝統はなくなってしまうんだぞ」という伯父の言葉をきっかけに、26歳で故郷に戻り、家業を継ぎました。「折井着色所」は祖父の代から続く金属着色の専門工房なのですが、当時の高岡はバブル崩壊の煽あおりを受け、産地全体の売り上げは最盛期の3分の2。そこでまず父から伝統の技を学び、自らは着色技術の実験のようなことを繰り返し、銅板・真しん鍮ちゅう板・鉄板の新たな発色を確立。37歳で起業して、現在は建築資材、インテリア、クラフト作品などさまざまな分野に提案を広げています。

仕事の忙しさをリフレッシュさせてくれるのは、ブラックバス釣りです。自宅から車で30分の山の至るところに田んぼの貯水池があるのですが、その池にカナディアンカヌーを浮かべ、水面でトップウォータールアーを操り、誘い食わせる「サーフェイスゲーム」をよくします。朝は靄もやが漂う日もあるし、夏場になるとカッコウがさえずり始めたり、セミが鳴き始めたり。携帯電話もつながらないところで、1時間半〜2時間ほど池を1周するのは、とても心が洗われる。

釣れるか釣れないかはあまり関係なくて、バスがバシャッと顔を出せど餌に食いつかないとか、バレちゃったり(逃げられる)することも含めて、快感ですね。一時は週に3〜4回、通っていました。少年時代はボーイスカウトに所属していたし、キャンプはもとから好きでしたが、バス釣りやカヌーで湖を散歩するという新しい世界を大人になって知ることができたのは幸運だったなと思います。

アウトドア以外の趣味というか、日課にしているのは飲み歩きです。8年ぶりに地元に帰ったら人脈が途絶えていたので、高岡のコミュニティで毎日飲み歩き、異業種の友人をたくさんつくりました。伝統工芸である高岡銅器の世界にいる身なので、組合にも入っているし、青年会の役員もやっていましたが、僕自身は同業の方たちとベッタリした交流をしないようにしています。

特に協業、コラボ、共同制作、共同開発はしない。同業者は話が弾む半面、敬遠し合うところもあるし、何か指摘されると「そんなことわかってるわい」とイラッとしてしまう(笑)。でも、異業種の方は話を素直に聞いてくれるし、異業種ならではの指摘が僕にとって非常によいアドバイス、新しい発想につながることが多いです。実際、飲みの場で「それいいね!」「やろう!」という話になって、1週間でサンプル製作とか、そこから製品化とか、よくあります。

好きな言葉は「鶏口牛後」です。祖父や父の影響もありますが、それこそ「大企業で平々凡々とやっていくより、小さい組織のなかでガッツをもってトップを取ってやれ」と幼いころから思っていました。長いものには巻かれない、という信条のもと、新しいことに挑戦をし続けていたら、いつの間にか5人だった職人数は16人まで増えていった。弊社の平均年齢は現在、35歳です(高岡銅器の業界全体では63歳)。若い彼らに伝えたいのは、月並みになるけれど、信念を貫き通せばいつかは自分のものになるということ。何事も諦めず、主体的に動くことでしか、道は開けないとあらためて思います。
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構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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