ところが、高齢者がお助け隊のサポートを求めて次々と区役所にやってくる。学生たちは、用意された会議室に感染防止のためにアクリル板を置いた机を自分たちで並べ、無我夢中で予約代行をスタートさせた。それでも「もっと早く接種できないのか」という高齢者の方たちからの切実な声が、学生たちに降り注いだ。
久元市長からお助け隊を組織するよう指示を受け、大学等の窓口を担当した企画調整局担当部長の藤岡健が語る。
「あまりの混乱で学生たちの心が折れてしまい、翌日には来なくなってしまうのではないかと心配した。インターンシップなどとは異なり、お助け隊ではナマの現場を体験してもらうしかなかったが、次第に彼らは自分たちで考え、課題を見つけ、行動し、たくましくなってくれた」
やがて、お助け隊の活動が新聞やテレビで紹介されると、今度は早朝から数百人の高齢者の方がお助け隊のサポートを得ようと長蛇の列をなした。当初は市内の12カ所にお助け隊が配置されたのだが、朝7時にその日に受付できる整理券を配り終える会場も出てきた。やがて、お助け隊は増員され、常設の会場だけで57カ所にまで拡大された。
しかし、ここにも落とし穴があった。神戸市内には23もの大学や短期大学があり、約7万人の学生がいる。手伝ってくれる学生を集めるのには困らないと考えていた前述の藤岡は、各大学などにお助け隊への参加を勧めてほしいと依頼を出した。ところが、「感染防止のために課外活動を休止している。それに抵触する活動を学生には勧められない」という答えが返ってきた。
ならばと、何人かの学長らに直談判すると、ボランティアとして認定したり、公休扱いにしたりする大学も現れた。そんな努力が実り、最終的な学生の登録者は2208人に達した。
コロナ禍で生まれた世代を越えた助け合い
実際にお助け隊として20日間ほど活動した園田学園女子大学の宮内莉子は、次のように語る。
「テレビのニュースでお助け隊を知って、自分でも力になれると思いました。高齢の方はやさしい人がほとんどでしたが、お話が聞き取りにくかった人もいて苦労しました。でも、予約終了の画面を見た方が『ホンマ、お助け隊がおってよかったわ』と感謝してくれたのがとても嬉しかったです」
将来は保育士になりたいという彼女は、「お助け隊に参加した人たちが皆フレンドリーな人たちばかりだったので、たくさん同世代の友達もできました。手に入れたのは、やりがいだけではなかったと思います」とも語った。
お助け隊に参加した園田学園女子大学の宮内莉子
神戸市が12歳以上の全ての市民に接種枠を拡大した8月末、お助け隊はその活動を終えた。お助け隊がサポートした予約は、ピークの5月には予約全体のうち約30%を占めていたが、高齢者の多くが接種を済ませた8月になって1%にまで減少したからだ。
かつては当たり前であった「世代を越えた助け合い」は、近所に住んでいても、血縁関係があったとしても、いまはほとんど見られなくなった。だが、コロナ禍のワクチン接種という緊急の事態をきっかけに、神戸市には古き良き時代の共助が生まれていた。綱渡りの中で運営された「ワクチン接種申込お助け隊」だったが、とてもうまくいったと言っていいだろう。
連載:地方発イノベーションの秘訣
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