きらびやかなラグジュアリーの終焉とLVMHプライズという才能探し

LVMHプライズで2017年にグランプリに選ばれた「マリーン・セル」(Getty Images)


栗野:いわゆる「ラグジュアリー」として、きらびやかなものを想像するとしたら、この二つのブランドはそこからは遠いです。きらびやかなものがラグジュアリーである時代は終わると思います。日本発の次のラグジュアリーという観点で見ると、Suzusanはわかりやすい。逆に日本からきらびやかなラグジュアリーというのは出るのでしょうか? 疑問です。

中野:たとえば西陣織の「HOSOO」はいかがでしょうか。HOSOOはディオールなど海外のハイブランドがコレクションにテキスタイルを使ったことをきっかけに、世界的に有名になっています。

栗野:Suzusanも過去にディオールと組んでいます。ディオールの製品に組み込まれると非常に高価になるのですが。とはいえ、西陣織じたいはマテリアルからして高級ですよね。有松絞に関しては、西陣のように糸からたいへん貴重なものというわけではない。当然、両者の値段は違ってきます。

中野:Visvimはどの国で人気がありますか? 

栗野:全世界でうけています。海外での直営店はロサンゼルスにありますが、築125年の歴史的建造物内に作ったお店です。セレクトショップだとドーバー・ストリート・マーケット(DSM)には入っていますね。東京にもロンドンにも。


ロンドンのドーバー・ストリート・マーケット(2015年撮影、Getty Images)

中野:たしかにVisvimにはDSM的テイストを感じます。何を売っているのかわからない、という点で。服だけを売るのがファッションではないというメッセージが伝わってきます。Suzusanの海外での人気のきっかけはなんだったのですか?

栗野:先ほどの西陣織の話に似ていますが、パリの「プルミエール・ビジョン」という生地見本市に「メゾン・デクセプション(Maison d’ Exceptions)」という高級なハンドクラフトばかり集めた部門があるのですが、そこで5年くらい前にSuzusanが紹介され、すぐディオールがとびついたのです。ある意味で逆輸入系ですね。

「ヨーロッパ中心」からの脱皮とLVMHの狙い


中野:ディオールとルイ・ヴィトンはいまや、新しく出てくるものを是認する権威になっていますね。彼らが認めたものが世界で認められていく、という。

栗野:いささかネガティブに言えばディオールやヴィトンの内部のクリエイションが弱体化しているからでしょうか。

安西:きらびやかなラグジュアリーが終わるという話に関して、経緯を整理してみます。19世紀、新興ブルジョワジーが出てきたときに、それ以前の王室、貴族に根付いたようなラグジュアリーに新興ブルジョワジーが憧れてラグジュアリーが発展しました。さらに20世紀半ば以降にそれが大衆化していきます。その世界観をプロモートしたのがフランスやイギリスでした。

しかし、ラグジュアリーという表現は使わずとも、日本には日本の、インドにはインドの、それぞれ地域に根付いたラグジュアリーというものがあり、また各地域でラグジュアリーの認知が違うという現実があります。それが浮き彫りになってきたのがこの十数年ではないかと思います。きらびやかなものだけがラグジュアリーと思わされたのが誤解の元で、それを再発見、あるいは再定義しようというムーブメントが生まれており、そういう文脈に有松絞があるのではないでしょうか?

栗野さんはLVMHプライズの審査員も務めていらっしゃいます。このような文脈にあって、受賞者の傾向からなにか変化を感じ取られていますか?
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文=中野香織

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