栗野さんはLVMHプライズの審査員を初回から務め、アフリカの最先端ファッションにも精通し、英国王立美術学院から名誉フェローを授与される(2004年)など、世界のファッションシーンで最も影響力をもつクリエイティブディレクターのひとりです。時代の変化にいち早く反応するファッションの動向を知ることで、これからのラグジュアリーが向かう道筋も見えてきます(前後編、後編は9月25日公開)。
日本のファッションはラグジュアリーと見られるか?
中野:栗野さんは日本発にして世界で認知されている新しいラグジュアリーブランドとして、「Suzusan」と「Visvim」を例としてあげてくださいました。その根拠は何でしょうか?
栗野:Visvimは、中村ヒロキさんが2000年に立ち上げたブランドです。デザイン傾向としては、昔のアメリカにあって今は失われてしまったもの、そこにインスパイアされたものを作っています。クオリティーと希少性を軸に据えた商品、そして販売価格と販売戦略がラグジュアリー路線に則っているのです。
類似の他のブランドに比べてはるかに値段が高く、セールもしない。卸もやめて直営の方向性を保っています。‘アメリカン・カルチャー好みのブランド’という以上にラグジュアリーのビジネス戦略をとっています。
Visvimのデザイナー 中村ヒロキ(Getty Images)
Suzusan は、400年以上続いている名古屋の有松絞というテキスタイルを基盤にするブランドです。ここに海外でも通用するデザインが入って、世界での地歩固めを進めています。絞の老舗の5代目にあたる村瀬弘行さんが留学から続いてドイツに定住していて、その感覚を活かしてビジネスをすすめています。
安西:こうした方向のビジネスをやっている方はそれなりにいらっしゃいます。ただ、ラグジュアリービジネスとしてのポテンシャルはあるのかどうか、まったくわからないのですが。
栗野:おそらくテイストの問題です。つまるところ、ファッションはテイストの話になるのです。テイストに価値をつけていくのです。
Visvimは「アメリカンヘリテージ」という感覚なので、すでに世界語になっています。逆に、安価なゾーンですでに世界語になっているものなので、このテイストで高級品を成立させた戦略が特異で、それを成功させたのはVisvimが初めてです。
Suzusanのほうは、日本のクラフトマンシップや伝統芸みたいなものを、ドイツに身を置いているがゆえに見える客観的な視点から再構築しています。400年続いたものを現代にうまくアレンジしているという意味で紹介しました。
中野:海外のどのあたりで、どのような点が人気なのですか?
栗野:Suzusanはミラノの有名セレクトショップ「ビッフィ(BIFFI)」のウィンドウでフィーチャーされています。人気の理由は、クラフトマンシップです。イタリア人はハンドクラフトのものが好きですね。ヨーロッパでのうけがとてもいい。