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2021.09.25

食用バラに人生を懸ける。凡人から「希望の星」に

美しい見た目で人気が高いが、虫や病気に弱く、育てにくいといわれるバラ。実は、ビタミンやポリフェノールなどの美容成分が豊富に含まれ、食べられる。しかし、食用のための無農薬栽培は困難で、国内ではほとんど流通していなかった。

この食用バラに目をつけたのが当時大学2年生だったROSE LABO代表の田中綾華だ。曽祖母の影響でバラが大好きだった田中は、大学を中退して農家で修業し、6年前に会社を設立した。現在、酷暑で有名な埼玉県熊谷市の隣、深谷市のビニールハウスで年間約27万本の食用バラを生産する。

6月初旬、35度を超える暑さのなかで、20代中心の従業員らがバラを収穫していた。食用として飲食店に卸されるほか、独自開発した化粧品や雑貨、食品などに加工される。最近はSNSをきっかけに若い女性の間で人気が広まり、売り上げの8割近くをオンライン販売が占める。業績は右肩上がりだ。

最初から順調だったわけではない。融資を集めようにも「若い女性だから」という理由で断られることもあった。地元の金融機関の支援を受けて農園をつくり、従業員も雇ったが、最初の年は経験不足で3000本のバラが枯死。農業学校に通い、アルバイトをして給料を払いながら、安定的な生産にこぎ着けたが、今度は買い手の飲食店がなかなか見つからなかった。

苦労してつくったバラを捨てたくないと、冷凍保存したバラをシロップやジャムなど加工品にして青空市場で売っていたところ、大手小売り業者の目に留まり、全国の百貨店などで販売が決定。3年目で年商1億円以上、黒字に転換した。

「大学生のとき、自分は取りえがないと劣等感がありました。自分は凡人。だから人の3倍の努力が必要だし、やれることは全部やる。努力の結果、自信がついて自分が好きになりました。目指すは太陽のような存在です。高齢化の進む農業界の販売力や、女性起業家を支援し、みんなの『希望の星』として役に立ちたいと思っています」


たなか・あやか◎1993年、東京都生まれ。食用バラ農家を目指して、大学2年生で中退、バラ農家で修業。2015年に独立し、現ROSE LABO設立。日本で珍しい農薬不使用の食用バラの栽培、加工、販売を行う。

文=成相通子 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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