プロキックボクサーの挫折から奮闘。広告運用のスペシャリストへ

植野大輔(左)と藤原彰二(右)


藤原:なので、人事制度から手を付けました。

植野:それをCOO自身がやられたんですか?

藤原:いまもやっています。自分で会社をやっていた時代から、どんな制度がいいか、原資の割り振りはどれぐらいか、等級に対する説明はどうするか、学び続けています。孫(正義)さんの本に書いてあったやり方で「いちばん詳しい人を呼んで、自分が理解するまで説明してもらう」んです。人事は永遠の課題ですから。

植野:ハードの面で制度を変えても、なかなかソフトの面は変わらなかったりしますよね。

藤原:会議を変えました。それまでオープンじゃなかったんです。人を叱る場合にはクローズになる。ちゃんと報告や意見を聞きたい場合、誰でも聞けるオープンな議論にするはずです。以前は執行役員以上でないと経営にかかわる会議に参加できなかったのを、少しレベルを下げた会議までは全社員が出られるようにしました。


「視座が上がってCxoに就いたのかもしれないし、逆にCxoに就いて視座が上がったのかもしれません」

植野:会議にルールは設けていますか?

藤原:始める前に「必ずここまで決める」と言って始めます。決まらないと終わらせない。評論家が多くて、決断したり、結論を出せる人がいない会議はよくない。

CxOは一日に何度も決断して当たり前ですが、「こいつすごい才能があるな」と思うのに決断できない人がいて、そんな人は失速していきます。決断できることは、ある種の才能なんですよ。

植野:会議の最後は「みんなで決めるぞ」なのか、「俺が決めるぞ」なのか、「あなたが決めるんですよ」なのか。どれになるんですか?

藤原:「みんなで決める」が近いです。出前館という組織には、加盟店と配送員とユーザー、この三方がいるんですが、みんな自分の立場に意見が偏るんですね。僕は中立的に見て「それは加盟店の視点だよね?」とか「ユーザー視点過ぎるんじゃないの?」という具合に差し戻します。伝えているのは「いい提案だと思ったら変えます」ということ。ベストな選択肢を僕は選びたい。だから、全員で決めるというやり方との中間くらいですね。

植野:藤原さんがビジネスの指標で大事にしているものは何ですか?

藤原:リテンション(※2)です。僕らのビジネスモデルでは日常化してもらえる商材ほど強い。その人が何回も使ってくれるかは重要です。

※2 リテンション(既存顧客維持)自社サービスを利用した顧客に対し、ブランドに対する継続的な利用と関心を保ち続けてもらうために行う施策を意味するマーケティング用語。人事用語では「人材の維持・確保」の意味になる。

植野:新規顧客も取りたいじゃないですか?

藤原:マーケティング本部はKPIを新規に寄せますが、それ以外のサービスはすべてリテンションに寄せてくれと話しています。
次ページ > 数字の達成よりも大事にしたいこと

文=神吉弘邦 写真=高橋マナミ

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事