デグォンとその部下ら計3人は、ウィシクの隣家で盗聴を続ける。ウィシクの家のコンセントの内部に盗聴器を仕込み、それぞれの部屋で行われる会話や物音に聞き耳を立てる。映画の途中、盗聴器の存在に気づいたウィシクが、訪ねてきた知人に本当の気持ちを伝えられない場面もある。イ監督は「1985年当時の韓国であれば、盗聴も当たり前だっただろう、と観客も考えるのではないかと思った」と語り、観客を自然な形でストーリーに誘う役割を「盗聴」に期待したという。
金大中氏も生前、ソウル市西橋洞の自宅に軟禁された際、国家安全企画部(現・国家情報院)による監視下に置かれた。当時、金大中氏と頻繁に接触した町田貢元駐韓公使によれば、簡単な食事を済ませた後、金大中氏は紙片を何十枚も準備し、町田氏との間で筆談を続けたという。筆談が終わると、大きなガラス製の灰皿に紙片を集めて焼いたそうだ。
韓国の情報機関は盗聴について道義的な罪悪感がなく、必要な行為という認識が強い。韓国情報機関はしばしば、日本に極秘状況を提供してきた。たとえば、1991年と92年の2度、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は母、高英姫氏らと共に来日し、ホテルオークラに宿泊した。韓国情報機関は日本の警察当局にこの情報をリークした。2001年5月、金正恩氏の異母兄、金正男氏の訪日もリークし、正男氏は入管難民法違反で拘束された。日韓関係筋は、韓国によるリークの動機について「韓国だけでは日本国内での情報収集に限界がある。リークすれば、日本が盗聴手段などを使って、更に詳しい情報が得られるのではないかと期待したようだ」と語る。