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朝日新聞外交専門記者


韓国は現在も、同じ韓国人に対してはともかく、外交官や外国メディアなどへの盗聴行為は続けているようだ。「電話中、韓国政府の悪口を言ったら、突然電話が切れた」「雑音がひどくて、声が聞き取れない」といった話は枚挙にいとまがない。少なくとも、関係者は皆、盗聴されていることを前提に会話をしている。私もソウル在勤中、携帯電話を新しい機種と交換した。通信会社の担当者が「アプリを新しい携帯にも移すには、Gmailアドレスに一時的に情報を仮置きする必要がある」と言われ、自分のアドレスを教えた。だが、できなかった。担当者は「このアドレス、既に使われています。こんなことは初めてだ」と言った。どういう意味かと尋ねたら、「あなたの携帯のダミーがもう1台存在しているということですよ」と言われた。

リアルタイムの盗聴ではないが、韓国政府当局者も同じような目に遭っている。韓国政府は外国メディアに秘密の情報が流れると、その情報源を特定しようとする。その過程で、目をつけた当局者から携帯電話を提出させる。私は盧武鉉、李明博、朴槿恵、文在寅の各政権の時代、ソウルで仕事をしたが、その時々の当局者らに迷惑をかけた。被害に遭った知人の1人は「職場に国情院が訪ねてきて、穏やかな口調で事情を聴かれた。携帯も提出した。任意だが、断ればクロだと判断されかねないし、人事に影響が出るから、断れない」と語った。携帯にある情報すべてを抜かれるため、本人も覚えていないような昔のささいなプライバシーまで暴露される。この過程で、何人もの親しい知人と疎遠になった。相手にも人生があるから仕方がないことだが、愉快なことではない。

デグォンは映画で、ウィシクの温かで高潔な人柄に触れ、徐々に自分がしている仕事に悩み始める。最後には、「彼を死なせちゃダメだ」と絶叫し、地位も財産も棄ててウィシクを守ろうとする。

もちろん、これは映画だから、勧善懲悪の構図を作りやすい。人間はそう簡単に善人と悪人に切り分けられない。盗聴行為が絶対悪だと言い切る自信もない。1983年9月の大韓航空機撃墜事件で、「ソ連による撃墜」という決定的な証拠は、自衛隊の電波傍受から生まれた。それでも、盗聴という行為の罪深さを改めて感じる機会を与えてくれた映画だった。

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文=牧野愛博

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