シチリアの塩田が教えてくれた「忘れがちな」月の力

シチリア島の西部トラパニの塩田(Getty Images)

イタリア・シチリア島といえば、透き通る碧い海、温暖な気候、豊かな海の幸や山の幸。美しい自然と美食で世界中の人を魅了し続けているリゾート地として有名です。

地中海のほぼ中央に位置することから、古くから地中海の交差点として栄え、古代ギリシャ、カルタゴ、ローマ、アラブ、ノルマンなどに征服された歴史から、島には各時代の人々がもたらした文化や伝統が残っています。

島の西に位置するマルサラという街は、ティラミスに使われているアルコールでもある世界4大酒精強化ワインのひとつ、「マルサラ」の生産地。イタリア建国の父とも言えるジョゼッぺ・ガリバルディの千人隊がパレルモを解放する際に上陸した港町でもあります。

そしてそこから少し離れた場所では、紀元前400年から今も変わらず、伝統的な塩作りが行われています。シチリアの太陽とアフリカからの風により結晶する天然塩は、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ヨウ素などの天然のミネラル分を豊富に含み、どこか丸みのある優しい味。これがシチリア料理のカギと言うか、イタリア料理の隠し味といっても過言ではありません。


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このエリアの海は島に囲まれた潟になっていて、海の深さは1m~1m20cm程の遠浅で、まさに塩作りに適した環境。塩作りのピークは6月から9月頃、シチリアの強い日差しを利用し、いくつもの区画に分かれた塩田を何度も移し変えながら、塩分濃度3.5%の海水を段階的に24%まで濃縮させ、最終的に塩の結晶を底に12〜15cm溜めていきます。

塩田には風車がつきもので、かつては塩を細かくするための臼挽きとして、また塩田の海水を運ぶ動力源として使われていました。現在は博物館やショップとなり、名物の塩やシチリアの陶器などの販売をしています。またこの一帯は自然保護区となっていることもあり、風を受けてカイトサーフィンに楽しむ人、美しいサンセットを見ながら食前酒を嗜む人々で賑わっています。


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しかし、そうして自然を感じているとつい見落としてしまうことがあります。「月」の力です。

塩作りには、確かに日差しの強さとアフリカからの風が欠かせませんが、海水を呼び込むのには「月」が作用しています。これこそが塩作りにおいて最初の原点であり、重要なクリエーションなのですが、当たり前に“電気”のある生活では、それを意識することや感じることが難しく、忘れてしまいがちです。
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文=松嶋啓介

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