シチリアの塩田が教えてくれた「忘れがちな」月の力

シチリア島の西部トラパニの塩田(Getty Images)


友人でもある予防医学博士の石川善樹さんによれば、クリエーションの語源は「クレオ」と言い、「自然がつくり出したもの」という意味です。自然がつくり出すもの、つまり当たり前のようで目に見えないこの価値を感じることが、クリエイティビティは欠かせません。

テクノロジーに囲まれた便利な生活ばかりしていると、つい人間の都合ばかりを考えがちです。また、イノベーションの必須要素とも言われるテクノロジーにおいては、この塩作りでいう太陽や風のような、目に見えやすい部分に気を取られがちです。確かに、竈を使えば塩はたったの1日でできますが、時間をかけて作ったものとは違います。

自然を愛でたり、自然と戯れたり、自然と暮らしていると、ふとした時に自然が喚起してくれることがあります。そんなわずかな気づきを得れるのが、リゾート地でバカンスを過ごす素晴らしさで、バカンス明けの人のクリエイティビティが冴えていたりするのはそれが理由ではないかと言われたりします。


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そう考えると、母なる島とも言われるシチリア島に世界中から多くの人々が集まるのは、自分都合で暮らす都会を離れ、自然の中で謙虚になり、共存の重要性を再認識するためなのかなと思います。

ドイツの詩人フリードリヒ・フォン・シラーが読んだ『ギリシャの神々』では、自然と一体となった素朴な生を享受する世界として古代ギリシャの世界が憧憬されており、それに対して近代世界は「この理想的な世界とはあまりにもかけ離れてしまった」悲しむべき世界として捉えられています。古代ギリシャの遺跡が多く残るシチリアの遺産を巡ると、上書きされている歴史に触れることができ、考えさせられます。

また文豪ゲーテは、「シチリアなしのイタリアは、私達の中に何も形作らない。シチリアにこそ、全てを解く鍵がある」と言っています。


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都市は便利だけれど不自然で、田舎は不便だけれど自然である。その自然には目に見えない力がある。今晩の「中秋の名月」、あるいは日々の月の満ち欠けを、そんなことを考えながら眺めてみてはいかがでしょうか。

文=松嶋啓介

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