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2021.09.26 12:30

ラグジュアリーな体験の本質とは 「フロウプラトウ」千葉秀憲の解

 「フロウプラトウ」千葉秀憲

 「フロウプラトウ」千葉秀憲

都会で忙しない日々を過ごしていると、自分自身と向き合う時間を設けることは難しい。いっそ自然の中へいけば一息つけるだろうが、このご時世では気軽にできないものだ。

現在、渋谷で「X_VISION inspired by Ploom X」が開催されている。本展では、JTから発売された高温加熱型の最新たばこ用デバイスPloom Xを体験しながら、アートを通じてその世界観を全身で体感することができる。

制作を担当したのは、ライゾマティクスから派生した千葉秀憲属する「フロウプラトウ」だ。「人々に豊かな感性をもたらし、一人ひとりの個性を尊重する」という、Ploom Xの理念をインスタレーションに落とし込んだ。


フロウプラトウは、かねてより得意としていたデザイン力と実装力を活かし、より多くのクライアントと協働し、豊かな体験をつくり出していくことを目的として、2019年に活動をスタート。社会の変化によって生まれる潜在的なニーズを捉え、新たな価値を社会に実装している。

そんな彼らが「X_VISION inspired by Ploom X」の制作依頼を受け、与えられたミッションは「渋谷でラグジュアリーな空間を作ること」だった。

「僕たちに話が来たときには、すでにPloom Xのデバイスのデザインは出来上がっていて、ブランドコンセプトもある程度固まっている状態でした。そこから、『渋谷のセンター街で、新作の体験ができるラグジュアリーな空間を作りたい』という依頼を受けたんです」

展示会開催のきっかけを、千葉秀憲はこう振り返る。まず彼らが着目したのは、Ploom Xが大切にする「個性」のあり方だった。

「僕らはまず、『個性とはなにか』をチーム全体で議論し、解釈していきました。そして個性を分解して考えてみました。さらに、物質を分解すると分子や原子に辿りつき、プリミティブな形で個性を表現できるのではという結論に至りました」

フロウプラトウのメンバーはそこからさらに、今の時代に求められるラグジュアリーや上質さを捉え直し、表現の方向性を固めていったという。

「最初は、渋谷のセンター街にラグジュアリーなイメージをマッチさせなければいけないと考えていたので難しさを感じていました。ですが、『僕らが求めている上質な空気感というのは、はたして既存のラグジュアリーなイメージなのだろうか?』と問いを立てて考えてみた時、誰がどこで体験しても、その体験自体が上質であればラグジュアリーなものになると気づいたのです。そこからは地域性に囚われることもなく、どんどんアウトプットの方向性が固まっていきました」

ラグジュアリーと聞くと、高級車やシャンパン、華美な装飾の空間などの煌びやかなイメージが思い浮かぶが、現代を生きる人が求めるラグジュアリーのあり方は変わりつつある。

「ただ豪華であればいいわけではなく、自分が欲するものに触れられて、自分や誰かのために気持ちを使えることが上質であると捉える空気に社会全体がなってきていると感じています。ラグジュアリーが物質的なものではなく、心の中にあるものとして変化したことで、上質な表現というものも多様化させられると考えました」

現在、「スレートグレー」「シルバー」など、合計7色のフロントパネルを展開しているPloom X。フロウプラトウは、そのカラーバリエーションに対して、最終的に7つの分解した自然のアルゴリズムを当てはめ、ジェネラティブアート(※アルゴリズムや数学的自立過程によって、ルール化された方法で生成・合成・構築される芸術作品)の手法でその多様性を表現した。



「たとえば、シルバーのPloomXを手に取ればクリスタルのイメージが、レッドのPloomXであれば溶岩のイメージがスクリーンに現れます。そのイメージは、はじめは抽象的ですが、5分間の体験の中で徐々に解像度が高くなり、よりプリミティブでコアな部分が視覚に伝わります。さらにその日の風や気温、湿度の情報を加えていくことで、インタラクティブな表現に落とし込みました」

その時々の環境のゆらぎを反映するというこだわりは、フロウプラトウ全体の方針でもあるという。

「いつも変わらず安定している静的な映像と、環境によって変化し続けるインタラクティブな映像との大きな違いは、体験の深さです。アーティスト達とも話したのは、今回の展示では、ただ風景を眺めるような体験とは異なる体験を提供したいということでした。体験するみなさんに癒しを感じていただくためにも、自然環境と自身を深く繋げ、より没入感が得られるように設計しました」
次ページ > 展示を通して改めて感じた可能性

文=宇治田エリ 写真=山田大輔

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