スペック至上主義ではない、ピュアEVのありかた── Honda Honda e Advance

Honda e Advance

ユーザーフレンドリーという概念は、工業製品にとって重要だ。評価基準は「ユーザーのニーズを明確に理解する」こと(C・クアンとR・ファブリカント共著『ユーザーフレンドリー全史』)。

目を、電気自動車に向けると、思いうかぶのはHondaが2020年10月に発売したピュアEV(バッテリー駆動の電気自動車)の「Honda e(ホンダ・イー)」だ。

Honda eを評価したいのは、スペック至上主義でない点だ。ピュアEVでは、駆動用バッテリーの容量と、インバーター(バッテリーからの直流電力をモーターを駆動する交流電力に変換する部品)の性能の数値と、航続距離の長さで商品力を競う。でもHonda eは、航続距離は274km(JC08モード)と割りきっている。

航続距離を短めに設定することのメリットは、いろいろある。ひとつは、バッテリーが小さくて済むこと。それに関連して車両価格が抑えられるし、一回の充電時間も短くなる。現状の充電環境(ステーションの数や配置)をみれば、航続距離が500kmを超えるクルマでも、真夏の渋滞のなか、例えば東京から軽井沢へ行くのは、やや勇気が必要だ。

ならば、市街地限定で使うのは、おおいにアリ。乗り入れはピュアEV限定が増えた欧州の都市部だけでなく、日本の政令指定都市でもEVはありがたい。力があって静かだから扱いやすい。エンジンの燃費が悪化する(CO2排出量が増える)のは、市街地での発進と停止の繰り返しによるので、ここにもEVのメリットがある。

Honda eはただし頭でっかちのクルマでない。315Nmという大きなトルクがアクセルペダルを踏んだ瞬間に発生するモーターのおかげで、ストレスなしの発進と加速が、爽快なドライブを実現してくれる。大型液晶モニターのインフォテイメント表示も楽しい。ここもユーザーフレンドリーだ。



Honda Honda e Advance

ボディ外寸|全長×全幅×全高=3895mm×1750mm×1510mm
ドライブトレイン|電動モーター 後輪駆動
出力|113kW[154ps]
一充電走行距離|274km(JC08)
価格|4950000円
問い合わせ|https://www.honda.co.jp

HondaのDNAを受け継ぐ新事業創出からベンチャー設立




Honda による新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」発のベンチャー企業「Ashirase(あしらせ)」が、2021年6月に設立された。視覚障がい者の歩行をサポートするというシューズイン型のナビゲーションシステム「あしらせ」は、22年度中の発売を目指すという。

自動車用語だとエンジン点火を意味するIGNITIONとは、「従業員が持つ独創的な技術・アイデア・デザインを形にし、(中略)新しい価値の創造につなげる新事業創出プログラム」と説明される。審査過程において、ベンチャーキャピタルがアドバイスや支援を実施し、起業したベンチャーの独立性を担保するため、Hondaの出資比率は20%未満、とされる。1970年から91年まで、オールホンダで従業員が自由な発想を競った「アイデアコンテスト」のDNAも感じるのだ。

photographs by Tsukuru Asada(MILD) text by Fumio Ogawa edit by Tsuzumi Aoyama

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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