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橋本大輝選手(Photo by Dimitris Isevidis/Anadolu Agency via Getty Images)

スケートボードやスポーツクライミングなど新競技が注目を集めた東京五輪だったが、日本の伝統的な強さを見せた「体操男子」の活躍が印象に残っている方も多いのではないだろうか。

観る者を驚かせるパフォーマンスを発揮するアスリート達の身体的な凄みは、視覚的にも捉えることができるためわかりやすいが、その身体のさまざまな機能は「脳」が司っている。

彼らの脳にはどんな特徴があるのか? 世界クラスの男子体操競技選手の「脳ネットワーク」の特徴に関する研究論文*1 を今年7月に発表した、順天堂大学大学院医学研究科放射線診断学の鎌形康司准教授とスポーツ健康科学研究科の冨田洋之准教授に話を聞いた。

特徴的な脳ネットワークが明らかに


「最新のMRIで世界クラスの体操競技選手の脳を見てみると、感覚・運動、注意、情動といった体操競技に密接な関わりのある脳の領域間を結ぶ神経接続が、競技未経験者に比べて強くなっていることがわかりました。さらに、これらの脳領域間の神経接続のうち、いくつかの接続が床運動、平行棒、鉄棒のDスコア(採点方式の一つとして技の難しさなど構成内容を評価)と有意な相関関係があることがわかりました」(鎌形氏)


(c) 順天堂大学

新型コロナウイルスが蔓延する前からスタートした体操競技選手の脳に関するこの研究では、世界大会で入賞歴のある現役日本人体操競技選手10名と体操競技経験がない健常者10名、合計20名の男性を対象に3テスラMRIによって脳の拡散強調像を撮像し、今回脳のネットワーク解析法を用いて、両者の脳の構造的な接続を比較。また、競技成績(Dスコア)との関連についても解析した。

2020年11月には世界で初めて、体操競技に密接な関わりのある機能を有した脳領域の体積が一般に比べ大きく、なかでも空間認識、視覚、感覚情報の統合、実行機能、作業記憶を司る脳領域において競技成績(Dスコア)に相関するという研究成果を発表している*2


(c) 順天堂大学 

男子の体操競技は、6つの種目で競われる。各種目で求められる機能と選手の脳の特徴との関連が今回の研究結果で捉えられた。

床運動は「空間認識、平衡・姿勢感覚、運動学習」などを司る脳領域を結ぶ神経接続、平行棒では「視覚運動知覚、手の知覚を含む感覚運動処理」や「記憶・意思決定、言語処理といった、いわゆるエピソード記憶関連」などを司る脳領域を結ぶ神経接続、鉄棒においては「視空間認識、意識、視覚内の物体認識」「エピソード記憶」と関連する脳領域を結ぶ神経接続、それぞれの強さとDスコアとの相関が見られたのだ。

研究に参加した冨田氏は、2004年アテネ五輪・団体総合での金と個人種目別平行棒の銀、2008年北京五輪の団体総合で銀メダルを獲得したオリンピックメダリスト。自身の経験と重ね合わせ、次のように語る。

「床運動では空間認識がしっかりしていないと連続で技ができません。鉄棒や平行棒はバーを再びキャッチする動きが求められますので視覚認識が重要性に現れていて、確かにその通りだと思いました。体操選手としても指導者としても、これまで意識してきたことが研究結果として出て、とても面白いです」

順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の冨田洋之准教授
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の冨田洋之准教授

文=新川諒 編集=宇藤智子

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