Close RECOMMEND

世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版


アートや料理の作成風景、子供たちの思い、家族の言葉などものせて……と、夢は広がっていったが、現実には、まったく異質のものを一つの形としてまとめていくのは大変なことだ。だが、幸いにも、身近に自閉症の子どもたちがいるカメラマンやデザイナーが、自らプロジェクトに関わりたいと参加を申し出てくれ、なんとか始動した。

「カメラマンのアイデアで、お皿ではなく“アクリル板”に盛りつけてみたらと薦められて、遊び心も手伝って、いろいろな色の食材のピュレを用意して描いてみました。そうしたら、本当に心が躍るようで、何より自分が楽しんでいました。そんなスタッフ皆のわくわくが伝わる本になればいいなと思いながら作りました。もちろんそれは、自閉症の子どもたちの個性を生かしながら、我々プロと組むことで彼らのキャリアにつながることを願ってでのことですが」とブシェ氏は話す。


アール・ブリュットなブイヤベース

今回のプロジェクトのゴールは、完成したブックレットをCROSS TEAMの活動の支援のために提供することだ。というのも、書店で売ることで一般に認知してもらうよりも、もっとダイレクトに、障害を持っている子供やその家族、友人、関係者になるべく広く見てもらいたいという思いからだ。そしてブシェ氏は、ブックレットの製作費をクラウドファンディングで募ることを選択した。

リターンの種類は、ブックレットだけの気軽なものから、レストランでのディナー券、また、シェフ自らが赴いて調理をするケータリングサービスまでさまざまだ。

「クラウドファンディングの手法をとることに決めたのは、私自身、そして私のレストランが、自閉症の子どもたちのアートを世の中に広めるための媒体になることができればと思ったからです。もちろん、個人でできることは決して大きなことではありません。けれど、大きなバトンにつなぐための小さなバトンを渡すことはできたらと思うのです」



こうした活動に目が向けられたのも、60代後半という今の歳になって、人生に対して余裕が出てきたからだと思うと、ブシェ氏は言う。

50年以上も料理人としてレストランという仕事に関わり、美味しいいものを食べて笑顔になり、幸せな時間を過ごして帰ってもらうために、わき目もふらずに邁進してきた。しかし、料理人人生として集大成を迎えている今、「それだけではまだレストランの役割が足りないと思えてきている」というのだ。

今回のプロジェクトもその一つだが、それ以外にも、レストランに食事に来ることで、美味しさや幸せプラスαのものを持ち帰ってもらいたいと願うという。例えば、波佐見焼の器を使い、その職人を招いて話を聞くことだったり、京都西陣織の機屋、澤屋重兵衛の八代目を招いて織物の話を聞くことだったり。

食もアート、工芸もアート。それぞれの枠を超えて「レストランがアートを繋げる場になれば……」そんな思いも強くなっているそうだ。円熟の料理人として、ブシェ氏の使命感と夢は広がってやまない。

文=小松宏子

PICK UP

あなたにおすすめ