「一度の購入で企業との関係性を終わらせるのではなく、継続的に関係性を作っていく消費の仕方が定着してきている。そのため、自分と企業文化が合っているか、サステナビリティにどう取り組んでいるかなど、細部までチェックする人が増えている」
PostCoffeeは、こうした流れを捉えながら、ユーザーとの双方向のコミュニケーションを意識したマーケティングを行ってきた。その中で重視しているのが、「コーヒーへ近づきやすい空気感」だ。
大手チェーンをはじめとした他社のコーヒーサブスクは、愛好家や深い知識を持つ玄人のユーザーを対象にしているが、PostCoffeeは、スペシャルティコーヒーを扱うほか、コーヒーにまだあまり触れたことのない素人をターゲットにしている。
「コーヒーのうんちくを前面に押し出さず、あくまでもライフスタイルの一部に取り入れてもらうという意識。また製品には手作り感が出るようにしている。例えば手書きのメッセージはその一つで、ユーザーに親しみが生まれる」という。
自社スタッフによる手書きのメッセージ(撮影=yOU(河﨑夕子))
発信も丁寧にしており、コーヒーの発送時には雑誌も同封し、ドリップ方法などを共有。インスタグラムに投稿された体験談、テンションの上がる音楽のプレイリストなどさまざまなコンテンツを掲載している。
コロナ前は、ユーザーミートアップと称し、実店舗でコーヒの新しい淹れ方やお菓子とのペアリング実験など、オフラインでもファンとの接点を築いてきた。
そうしたコミュニケーションから得られたユーザーの声は、積極的に採用する。コーヒー梱包の形はこれまでに5度更新しており、ラベルも頻繁に変える。ユーザーとともに商品のアップデートを続けているのだ。
「毎月新しい豆が届くと同時に、冊子からコーヒーの情報に触れ、自然と知識がついていく。PostCoffeeのユーザーはコーヒーに熱狂的になってる」と下村は実感している。
撮影=yOU(河﨑夕子)
今後は、リアルでのイベントを再開するほか海外展開も視野に入れる。「アジアでは台湾や韓国で、日本の比でないくらいコーヒーの消費量が増えている。国内でフレームワークを作れたら積極的に進出していきたい」
焙煎士レシピ付きの生豆
コーヒーのサブスクには、大手も参入している。パナソニックは2017年に、コーヒー焙煎機の販売と毎月の生豆宅配サブスク「The Roast」の提供を開始した。
PostCoffee同様、スペシャルティコーヒーを届けるサービスで、新規顧客数は毎年増え続けているという。
The Roastは「焙煎」にこだわる玄人向けのサービスだ。ユーザーは専用アプリを使って豆の入ったパッケージに印刷されているQRコードから焙煎レシピをダウンロードし、マシンを操作。焙煎温度や時間、風量を緻密に設定することができ、好みの味のコーヒーに仕立てられる。
レシピは、2013年に「World Coffee Roasting Championship 」で優勝した焙煎士の後藤直紀氏が作成している。
当初は目新しいサービスだったが、コロナ禍でコーヒー事業者によるサブスク参入も見受けられ、パナソニックの担当者は「ただ毎月美味しい豆が届くだけではダメ。自社ならではの特徴をどう出すべきか」に頭を使うと話す。
契約農園のこだわりをストーリー仕立てに紹介したり、オウンドメディアで焙煎士によるコーヒーの淹れ方を記事にしたり、やはり発信には力を入れている。スペシャルティコーヒーの認知度はまだ低く、伸びは決して大きくないというが、サービス開始から、毎年新規顧客数は増えている。
スタートアップも大企業も参入する、混戦のコーヒーサブスク。コーヒー豆自体の高い質はさることながら、丁寧な発信によるファンの醸成、ライフスタイルとしてコーヒーを楽しむ体験をいかに提供できるかが勝敗を分けることになりそうだ。