設立10年にしてグローバル人材を輩出する、独自の教育スタイルに迫る。
世界トップクラスの人材が集結するOIST。2011年設立と歴史は短いが、科学誌『ネイチャー』を発行するシュプリンガー・ネイチャー社の「質の高い論文ランキング 2019」で世界 9位(※東京大学40位、京都大学 60位)にランクインしたことから、世界で脚光を浴びている。
OISTは、小泉政権下のグローバルな未来戦略の一環として、沖縄振興政策として政府主導で設立された。研究環境や設備機材への投資も進んでいることから“夢の研究環境 ”とも評される存在だ。
専門分野を超えたセレンディピティ
17年より学長を務めるピーター・グルースは、世界から人材が集まる理由について教えてくれた。
「OISTではクリエイティブでハイリスクな研究にも、安定的に研究資金を提供します。これにより世界中から優秀な研究者(教員)が集まってくるのです」
キャンパスを埋めるのは教員が約 80人、学生が約 250人。現在は教員の60%以上、学生の80%以上が外国人だ。つまりグローバルから集めた学生をグローバルに通用する人材に育て上げていることになる。学内の公用語は英語だ。
「革新的な成果を生み出すには、人種、性別、国籍を超えた交流が必要です。科学界の共通言語として英語を使い、同じフロアに異なる分野の研究室が混在していることが、分野を超えた研究を実現するための前提条件です。それにより、セレンディピティやブレークスルーが促されます」
さらにOISTの教育で特徴的なのはローテーションシステムの採用だ。学生は最初の1年で3つのラボを経験するのだが、そのうちの1つは専門分野外を選ばなければならない。
「例えば化学を究めようとする学生が、物理学のラボに入る。それにより専門分野に縛られない複眼的なジェネラリストの視野と発想が得られるのです」
また、学生は入学した時点で、一人前の研究者として扱われるという。
「学生は授業を受けつつ、助手としてではなく、自分の研究をもつことができます。ベストの学生を引きつけるために、厳しい選考を通過した学生は、OISTでの博士課程を通じて経済支援が受けられます」
そのため在学中に『ネイチャー』に論文を掲載する猛者も割合的に少なくない。進路も、ハーバード、MITなど一流だ。
「研究・教育に加え、もうひとつの柱となるのがイノベーションです。技術移転でビジネスをつくり出し、OISTをハブとした沖縄振興のための産学連携のエコシステムを創出する。世界と日本をつなぐビジネスの楽園となる日も遠くないはずです」
ピーター・グルース◎遺伝子制御/発生生物学における国際的研究者。2002〜14年までドイツのマックス・プランク学術振興協会会長を務めたのち、17年に沖縄科学技術大学院大学学長就任。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)
科学分野の5年一貫制博士課程を置く大学院大学。2001年に尾身幸次内閣府特命担当大臣(当時)により提唱され、11年11月設立。研究分野は物理学、化学、神経科学、海洋科学、環境・生態学、数学・計算科学など。
https://www.oist.jp/ja