ビジネス

2021.09.16

これは、スーパーマーケット版Uberだ。15億ドル稼いだ青年社長が読む「コロナ後」

インスタカート創業者 アプールバ・メタ(Steve Jennings/Getty Images for TechCrunch)


5年分の成長を5週間足らずで果たす


インスタカートの台頭を引き起こした突然の変化は誰にも無視できないものだ。食料品のオンライン購入はこの1兆ドル産業の10%を占めるまで跳ね上がってきている。それは2019年末の3倍以上の数字だ。もちろん、この極端な成長はインスタカートにとっての最大のリスクの一つを浮き彫りにしている。パンデミックが通り過ぎれば、かなりの数の顧客が手ずから生鮮食品を選ぶ買い物の仕方に戻るということだ。

「5年分の成長をほんの5週間足らずで果たしたんです」とメタは言う。彼は元アマゾンの供給網担当エンジニアで、米フォーブスの2015年の「30UNDER30(世界を変える30歳未満の30人)」に選ばれている。「さらに成長は続いています。前年比300%以上の成長なのです」。

データ会社によれば、パンデミックによるパニック買いの最初の2カ月で、インスタカートは米国最大の食料品店であるウォルマートより多くの食料品を配達したという。このとき、インスタカートの配送量を唯一上回っていたのはアマゾンだけだった。現在では50万人のインスタカートのショッ
パー(買い物代行員)が米国とカナダの4万5000を超える店舗を回っていて、収益は15億ドルに達している。

通常、食品ビジネスを営む際にはかなりの物理的な床面積が必要だが、その確保を外部に委託していれば、当然ながら利益は上げやすくなる。インスタカートは、倉庫も、店舗も、冷凍庫も、配送車両ももたない。代わりにもっているのは、自社のアプリを動かす知的財産と、そのメンテナンスを担当する人材だ。時給で働く配送員は個人請負労働者であり、交通費も医療費も自分で負担している。

メタはこの仕組みのおかげで、一流投資家から8年で25億ドルを調達している。彼はインスタカート株を推定10%保有しているのでビリオネアということになる。

アマゾンにおびえる小売業者たち


メタの生い立ちに触れれば、彼が1986年に生まれたその20日後に、彼の両親はインドからリビアに移住した。父親はカダフィ政権下の送電線会社でゼネラル・マネジャーを務めた。メタが西洋式の食料品店を初めて目にしたのは、一家がカナダに移り住んだ2000年の14歳になってからのことだった。食料品店に入り、驚嘆のあまりポカンとしてしまったという。「あんなにたくさんのキットカットを見たのは生まれて初めてだったね」と、いまだに信じられないという表情でメタは頭を振る。
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文=クロエ・ソルヴィーノ 翻訳=木村理恵 編集=石橋俊澄

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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