時代を読む、ストーリーのあるホテル No.11「白井屋ホテル」

ヘリテージタワー内「the LOUNGE 」はまさに「街のリビング」。圧巻の吹き抜けのお蔭でとても開放感があり、その空間をレアンドロ・エルリッヒのインスタレーション「ライティング・パイプ」が走る。(photo by Shinya Kigure)

男女を問わず、社会の最前線で活躍するエグゼクティブたちは、魅力溢れる日本のホテルをどのようにお使いだろう。

せめて月に一度、可能なら二度でも三度でも、誰にも邪魔されず、リモートワークでも、寛ぎでも、遊びでも、自分のために滞在してみるといい。

日本のホテルは旅館の歴史と相俟って、伝統的かと思えば西洋のホテルのごとくスタイリッシュに最新鋭設備を纏う、東西融合の技や感性はピカ一だ。もてなしも、デザインも、世界レベルへと進化を遂げている。

まずは週末、金曜日の夜にチェックイン、ゆったりと日曜日が終わるまで、我儘な時を満喫するのが大人の使い方の流儀である。

ホテルジャーナリスト せきねきょうこ


群馬県前橋までは、東京から新幹線高崎駅でJR両毛線に乗り換えわずかな時間で到着する。思いの外、とても静かな街並みは、今の地方都市が抱える問題をはらんでいると聞いている。

しかし歴史的には、かつて絹産業で大いなる発展を遂げた前橋。そうなると歴史ストーリーが面白くないはずはなく、初めて降り立った街には暗さや寂しさが感じられず、むしろのんびりとした空気感に親近感を感じ、穏やかな人々が暮らす地方都市の感覚である。

「白井屋ホテル」が建つのは前橋の中心地。周辺には個人商店街が並び、夜の繁華街もあるが、今はシャッターを下ろしている。そんな中、「白井屋ホテル」は異彩を放っている。ホテルの前身は江戸時代に創業し、約300年もの間続いた老舗「白井屋旅館」であった。宿は2008年に廃業したというが、それまでこの旅館が長きにわたり栄えていたということだ。

 
国道50号線に面したホテルのヘリテージタワーのファサード。ガラス窓の中はオールデイダイニング「the LOUNGE」(photo by Shinya Kigure)

現在の「白井屋ホテル」は、ここが旅館であったと聞いても想像がつかないほど、未来志向のホテルとして、また斬新なアートのホテルとして存在感を示している。何よりもこのホテルの創り手は前橋の出身者。故郷である前橋を再び活性化させ、ホテルが様々な文化・アート・交流の場となることを望み「街のリビングルーム」として、2020年12月12日に開業を果たした。

6年半の時を掛けて開業したという気鋭のホテルは、現在、創業1年にも満たないものの、藤本壮介氏の設計による“アートのホテル”として感度の高い人々の間で大いに注目されている。館内には、国内外のアーティストによる作品が飾られ、中でも、ロビーやレストランのあるヘリテージタワーの4層にわたる吹き抜け空間を飾るレアンドロ・エルリッヒによる光を用いた「Lighting Pipes(ライティング・パイプ)」が特に印象的である。

 
ヘリテージタワーの天井を飾るダイナミックな吹き抜けを俯瞰(photo by Katsumasa Tanaka)

ホテルの広報担当者から、「10時以降、部屋からパイプを覗いてみてください、光が美しいです」と言われ、覗いてみると、無機質なパイプに見えた昼の様子とは全く異なり、淡い光を幻想的に放ち、宙にくっきりと浮く幻想的な光のマジックが感動的だった。
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文=せきねきょうこ

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