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High Altitude Management株式会社 代表取締役 坪井玲奈

多くのフィットネスジムが苦戦したなか、コロナ禍で業績を伸ばしたジムがある。高地トレーニングジム「ハイアルチ」だ。これまでアスリートたちが行ってきた「高地トレーニング」を、“平地”で“気軽に”利用できるようプログラムしたことで注目を集める。高地環境が起こすヘルスケアイノベーションとは。


「たった30分歩くだけで、2時間分の運動効果」。そんな運動効率のよさで注目を集めるトレーニングスタジオがある。平地にいながら、酸素濃度が低い高地環境(High Altitude=ハイアルチチュード)を再現した空間でトレーニングを行うことができる「ハイアルチ」だ。

ハイアルチの東日本橋スタジオ(東京都中央区)に足を踏み入れると、19℃に設定された室温に思わず身震いする。トレッドミルとウェイトトレーニングのマシーンが並ぶスタジオからは、高地環境から想像していた息苦しさや気圧の変化による違和感はまったく覚えない。それもそのはず、再現された環境は高度2500mの低酸素状態だけで、気圧は平地と変わらないのだ。それは高地トレーニングの欠点である高山病のリスクがないことを意味する。

「最初は少し肌寒く感じると思いますが、10分も運動すれば汗だくになりますよ」

そう笑顔を見せたのは、ハイアルチの運営会社・High Altitude Managementの代表取締役、坪井玲奈だ。彼女の言葉の通り、トレッドミルを走り始めたインストラクターは数分もせずに額に汗をにじませた。壁に掲げられたモニターには、ハイアルチシステムの特徴であるウェアラブル端末で計測された血中酸素飽和(SpO2)や心拍数、消費カロリーが常時映し出される。

驚くのはわずか数分の軽いジョギングでSpO2は85%、消費カロリーは240kcal(※)に達したことだ。SpO2の通常値は99〜96%で、成人が精いっぱい息を止めたとしても93%ほどにしかならない。240kcalはご飯1杯に相当し、クロールで30分間泳ぎ続けてやっと消費できるようなカロリーだ。地上の3分の1しか酸素がない高地環境での運動はそれほど負荷が高く、多量のエネルギーを消費するということである。しかし、ハイアルチの真価は高い運動効率だけではない。


ハイアルチでトレーニング中に計測したデータは、アプリにすべて蓄積される。

「ハイアルチのコンセプトを一言で表せば『細胞から鍛える』。その結果として、疲れにくい体やダイエット、アンチエイジングが期待できます。高地環境でトレーニングすることによって、エリスロポエチン(EPO)というホルモンが増え、赤血球が多くつくられます。その結果、酸素を取り込みやすい、疲れにくい体になりますし、ミトコンドリアが活性化することで脂肪燃焼が高まります。また、高地空間で筋トレを行うと、平地に比べて30%筋力が向上するという実験結果も報告されており、短時間で効率的なトレーニングができるのです」(坪井)

ハイアルチの効果を裏付けるのは、細胞が低酸素の状態に適応するという「低酸素応答」理論だ。それを発見した米英の3人の研究者は2019年にノーベル医学生理学賞を受賞しており、貧血やがんなど、多くの病気の治療法や治療薬の開発につながることが期待されている。

ビジネスイノベーションへの期待


ハイアルチの効率のよさは、運動効率だけではない。ビジネスとして見たとき、その投資効率の良さもまた、特筆すべきだろう。主にフランチャイズで店舗を展開しているハイアルチは、「5000万円の初期投資を3年未満で回収」(同)できるよう設定され、初期投資も低い。

「最近のフィットネス市場では、専門性が高いほうが集客しやすいとされています。その点、ハイアルチには日本で唯一高地環境を再現する独自のノウハウとバイタルデータを可視化するシステムがあります。『環境』に重きを置いているからこそ、自宅ではその効果を再現できません。結果、コロナ禍でも大きく業績を伸ばしており、さまざまな業態の方々からフランチャイズ出店の希望をいただきました」(同)

ハイアルチの会員の内訳は、プロアスリートが5%、ランニング愛好家が15%で、それ以外は運動経験が少ない方が多い。男女比はやや女性が多く、年齢層は30〜50代がメインだという。これまで数百万円の費用をかけて海外で高地トレーニングをしていたというプロアスリートの利用者もおり、その本格さはお墨付きだが、「つらくない」「短い時間で効果が出る」という利点から、健康維持のための一般層に着実に広がっている。

「1回30分の完全予約制で、30段階のハイアルチスコアという定量プログラムに基づいてトレーニングを進めるため、プロのトレーナーは必要ありません。そのためスタッフの研修は1週間で済みますし、会員様はハイアルチという“場所”に価値を置いていますので、トレーナーの独立問題に悩まされることもありません」(同)

高地環境を再現した特殊なトレーニングスタジオだが、店舗の9割はフランチャイズ。坪井は「全国に店舗展開し、2024年には300店舗を実現する」と目標を掲げる。加えて、「高地環境をプロデュースすることによって、人々の生活、健康にイノベーションを起こす」というビジョンの下、新たな事業への挑戦もスタートさせた。「私たちが重視しているのは、高地環境をプロデュースすることです。『健康な人をより健康にする』ことから、ターゲットを広げていきたいと考えています。例えば、高地環境では血糖値スパイクを抑えられるという研究成果があり、山梨学院大学の教授とともに、糖尿病の治療に効く高地環境の開発を進めています」(同)

ほかにも、福島県須賀川市の池田記念病院が「疾病予防運動施設」としてハイアルチのシステムを導入しており、未病対策の分野で活用されている。2021年4月には空調大手のダイキン工業、そして医薬流通大手のアインホールディングスとの資本業務提携を行っており、「フィットネス領域を超えて、介護・医療施設などのヘルスケア領域から、企業の健康経営まで高地トレーニングを広げていく」と、坪井はその展望を語る。

そもそも高地環境をつくり出す装置は果実や美術品の保管のため―つまり、酸化による劣化を遅らせるために生み出されたものだという。その技術を活用して、ハイアルチは高地環境を人工的に再現するというイノベーションを起こした。そしていま、フィットネスからヘルスケアにまで可能性を広げようとしている。オフィスビルに設けられた高地環境ブースでちょっと一息、細胞を鍛えてくる。そんな光景が見られる日は、近いのかもしれない。

※ハイアルチでは4日間のアフターバーン効果を加味した、消費カロリーの計算アルゴリズムを採用。



ミトファジー効果に期待されるヘルスケア・イノベーション


糖や脂肪をエネルギー源として熱を生み出し、体温を維持する機能をもつミトコンドリアもまた、高地環境での運動によって活性化させることができるという。

「ミトコンドリアは自身を分解し、再利用しています。このシステムによって老化現象の元となる“傷ついたミトコンドリア”が再生し、働きを活発化させます。私たちはこのリサイクルシステムを『ミトファジー』と呼んでいて、ハイアルチでのトレーニングがその機能を高めてくれるのです。効果はダイエットやアンチエイジングなどですが、女性特有の悩みである生理痛や更年期障害にも有効なアプローチであると考えられています」(坪井)

「細胞を鍛える」。それは、低酸素応答を社会実装するためのシステムとプログラムによって実現した、ヘルスケアイノベーションのたまものといえるだろう。

 
ミトコンドリアは体重の約10%を占める、“からだのエネルギー発電所”

ハイアルチ
https://high-alti.jp/

店舗一覧
https://high-alti.jp/studio/

坪井玲奈◎コンサルティング会社にて女性向け商品の経営戦略を経験。その後エンジェル投資家・谷家衛氏の下で、ヨガスタジオの経営やヘルスケアスタートアップの経営支援などに従事し、2016年に独立。日本初のブリスボール専門店FOODJEWELRY設立。同年、ハイアルチプログラムの開発者である新田幸一と共にHigh Altitude Managementを設立し、代表取締役に就任。

Promoted by High Altitude Management株式会社 / text by Kazuya Takahashi / photograph by Tadayuki Aritaka / edit by Miki Chigira

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