簡単に言えば、合成生物学とは、生きものの生物学的コードであるDNAを操作してプログラムを変更し、別の「自然な」製品を生み出す生物学分野だ。
ギンコ・バイオワークスの共同創業者でCEOのジェイソン・ケリー博士が9月6日にポッドキャスト「セカンド・オピニオン」で説明したように、合成生物学はよくよく探せば、食品産業からファッション界まで、身のまわりの至るところに潜んでいる。
たとえば、バーガーキングが提供している、肉を使っていないのに「血のしたたる」ような「インポッシブル」バーガーは、「合成生物学から生まれた魔法のような成分によって実現したもので、動物を使わずに動物性タンパク質的なものがつくられている」という。
つまり、この新たな科学分野の力を利用して動物のヘモグロビンタンパク質のコードを酵母に埋めこみ、従来の牛肉バーガーの香りや味、歯ごたえを備えた植物性バーガーを生み出したわけだ。
インポッシブル・フーズが製造する、植物由来の人工肉(C)Impossible Foods
最近では、ギンコの顧客であるジェノマティカ(Genomatica)がルルレモンと提携し、生合成した植物由来のナイロン素材を開発している。この新素材を使えば、ナイロンやマイクロファイバーに見られるマイクロプラスチックが発生しない、環境にやさしいヨガパンツをつくることができる。
こうした生物分野をエンジニアリング業界へと押し進めようとしているギンコは、「オーガニズム・カンパニー(生物会社)」を自称し、これまでコンピューターをプログラミングしてきたように細胞をプログラミングすることをミッションに掲げている。
現在のパンデミックは、合成生物学とDNA操作の重要性を示すという点で大きな役割を果たしている。合成生物学を活用すれば、mRNAワクチンをより効率的に製造する手段が得られる。ギンコは最近、米アルデブロン(Aldevron)との提携により、mRNAワクチン製造に用いられる主要な酵素を10倍の効率で生成する遺伝子操作細胞を開発した。これにより、コストが安くなり、製造がスピードアップする可能性がある。
ギンコにとって新型コロナウイルスは、とりわけ検知と予防という観点からバイオセキュリティの未来を考える機会にもなっている。
このテーマについて、ケリーは次のように語っている。「私たちはいま、生物を設計してプログラミングできる時代に突入しつつある。そして私の考えでは、米国のバイオセキュリティ機能はあまり優れたものではないという証拠が得られていると思う」