従業員を休ませるだけでは、燃え尽き症候群は阻止できない

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米スポーツ用品大手ナイキは2021年8月末、「1週間の全社休業を実施し、従業員が心身を休めて充電できるよう有給休暇を与えた」。こうした動きが見られるのはナイキだけではない。リンクトインや、ソーシャルメディア管理のフートスイート(Hootsuite)、製薬会社ブリストル・マイヤーズスクイブ、会計ソフトウェア企業イントゥイットも、有給休暇を増やしたり、全社休業を実施したりするなどして、従業員が仕事から離れ、英気を養えるようにしている。

企業によるそうした取り組みは、確かに称賛されるべきだ。しかし、そうした取り組みを行っても、燃え尽き症候群(バーンアウト)を大幅に削減するにはまだほど遠い。これは、きわめて現実的なリスクだ。


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たとえば、筆者が創業したコンサルティング企業「リーダーシップIQ」が米国で実施した調査「2021年版従業員のバーンアウト(Employee Burnout In 2021)」では、「従業員の燃え尽き症候群をなくす方法を正確に把握している」と回答したリーダーはわずか19%だった。また、「自社の従業員向けに、燃え尽き症候群を効果的に削減するためのトレーニングを実施している」と回答したリーダーは24%にすぎなかった。

働く人の大部分は、パンデミック中に前向きな気持ちや回復力(レジリエンス)の低下を経験している。ある程度の休暇を取れば、心身を休めて充電はできるものの、現実問題として、職場復帰したときに仕事の環境が以前と何も変わっていなければ、ストレスの原因は解消されずに残ったままだ。

常軌を逸した業務負担に休日出勤、リーダーからの効果的なフィードバックの不足といった問題はみな維持されたままだ。しかも、従業員が回復力を鍛えたり、前向きな気持ちを取り戻したりする手段を与えられなければ、ほんの数週間や数カ月で、燃え尽き度合いは以前の水準に戻ってしまうだろう。

もちろん、厄介なのは、従業員が燃え尽きてしまう原因が、組織や企業によって大きく異なることだ。疲弊の原因は、パンデミックが猛威を振るう病院で働く看護師と、在宅勤務を希望する従業員の報酬削減を発表したばかりのテック企業で働くドライバーとではかなり違うはずだ。独裁者のように振る舞う上司の下で働いているうちに燃え尽きてしまった従業員もいるかもしれない。高い業績をあげている従業員が疲労困憊しているのは、業績が振るわない従業員に、リーダーが責任を取らせていないことが原因という場合もある。

筆者がときどき見かける、高い能力を持った従業員を燃え尽き症候群に追いやってしまう原因がひとつある。それは、プロジェクトを完了させようと死に物狂いになることだ。高い業績を誇る人たちが必死になって働き、全力を尽くしてプロジェクト(あるいはプログラムや書籍、分析など)を最後までやり遂げようとしているケースはいくらでもある。そうした人たちが精神的に苦しんでいるのは、プロジェクトがまだ完了していないからにすぎない。仮に少し休むようアドバイスをしても、彼らは不満を口にする。休むくらいなら、最後まで一気にやり遂げ、大きな達成感を得てから休暇をとりたい、と。無理やり2日間ほど休暇を取らせたところで、彼らは本当に仕事の手を休めるだろうか。コンピューターを取り上げれば、彼らはリラックスするだろうか。仕事に戻って、あの忌々しいプロジェクトをやり遂げるまで、ひたすら気をもむのではないだろうか。
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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