先日、岡山県の井原市にあるクロキという、デニムの糸染めから生地づくりまで手がけ、世界的なブランドからも高い評価を受けている企業を訪問させてもらった。そのときの話から、企業におけるチャレンジ風土をどう高めていくかということへの気づきをもらったので、紹介したい。
クロキの工場に連れていってくれたのは、こちらも世界中のコアなジーンズファンから愛される日本のジーンズブランド「ONI DENIM(鬼デニム)」のオーナー、大石正夫氏だ。氏は、国産デニムの草創期から日本のジーンズカルチャーを担ってきたひとりでもある。
「ONI DENIM」にとって、ジーンズの色落ちの経年変化までイメージした製品づくりは当たり前の姿勢だが、そのこだわりを実現するためには、クロキ社の染色技術と生地織り技術というパートナーシップが欠かせないものとなっている。
こだわり抜いた独特な経年変化の色落ちを出すため、時には、通常の織機の基本機能ではつくれないようなゴツゴツ感を生地表面に出したいという妥協なきオーダーが、「ONI DENIM」からクロキ社に飛ぶ。
いままでの技術では実現できない製品が求められたとき、その製品を生み出す手法を確立するには、織機が壊れるかもしれないような実験を重ねなければならないこともあるそうだ。実現すれば、確実に世の中が驚くデニム生地になる──そのような確信がある半面、貴重な織機を壊してしまうという懸念もある。当然ながら、その新しい生産技術への挑戦に手を挙げる社員はいなくなる。
プレッシャーに拍車をかけるのが、織機は追加補充ができないという現実だ。生地表面に独自の風合いを出すためによく用いられる織機は、新型織機より旧型のほうが相性がよいことが多いという。ところがこの旧型はすでに製造をストップしており、お金を出せば入手できるというものではない。そう聞かされたら、社員はいっそう怖くて手が出せないだろう。