【寄稿】パンデミック収束に、ワクチンは重要な役割を担う|東京理科大学名誉教授 村上康文

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「ブースター接種」には慎重なアプローチを


一方で3回目以降の「ブースター接種」についてですが、とくに慎重に進めていくべきであると考える研究者は、私を含め、少なくありません。

すべての新型コロナ変異株に対応?『口内に噴霧』の非mRNA型予防薬、商品化へ」でも述べたように、現状認可され、世界で使われているワクチンはすべてウイルスの(毒性のある)スパイクタンパクの全長を使ったワクチンです。

これを、5回とか6回とか7回、人体に接種することにはリスクが伴う可能性があることを、ワクチン開発者は認識すべきでしょう。またこのことが、われわれが今回、「口内噴霧型」、非mRNA予防薬開発に着手したそもそもの端緒でもあります。

COVID-19の致死率はSARSやMERSと比べて格段に低いため、慎重になってよい


新型コロナウイルスの致死率が高いのであれば、さまざまなステップを「省略」することも許されるのかもしれませんが、COVID-19の致死率は、SARSやMERSと比べると格段に低く、治療プロトコールが進歩したことにより致死率はさらに低下してきています。我が国では高齢者の接種や基礎疾患を持つ人への接種はほぼ完了しています。

50代以下の基礎疾患を持つ方への接種が完了すれば、COVID-19のハイリスクグループへの接種は完了したことになります。ハイリスクグループへの接種が完了しつつある現在、5、6回といった、日本ではまだまだ現実的でない追加接種については、以上のように慎重に進めていくことが必要であると考えます。

ちなみに今後のわれわれ研究者たちの戦略としては、ステップを省略することなく、以下の姿勢を取ることが重要なのではないかとも思います。

1)スパイクタンパク質そのものが様々な症状を引き起こしていることは米国のソーク研究所が既に著名な学術誌に論文発表しています(*1)。そのため、追加接種に用いる抗原はスパイクタンパク質の全長を用いずRBDの部分のみとする。このことは抗体依存的感染増強のリスクを下げるためにも重要です。

2)接種するスパイクタンパク質の量の調整が可能である組み換えタンパク質型のワクチンを使用すること。組み換えタンパク質による抗体作製は広く行われており、非常に多くの知見が集積されているからです。

3)多くの査読済みの論文において、スパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)を用いて免疫することにより十分な中和活性をもつ抗体が誘導されることが、既に明らかになっています(*2)。よって、できれば従来型のコロナウイルスのスパイクタンパク質のRBD部分ではなく、現在世界で感染拡大しているデルタ型などのRBD部分を抗原として用いること。

【参考文献】
*1 SARS-CoV-2 Spike Protein Impairs Endothelial Function via Downregulation of ACE 2、Yuyang Leiらによる査読済み論文
Circulation Research Volume 128, Issue 9, 30 April 2021; Pages 1323-1326

*2Antibody signature induced by SARS-CoV-2 spike protein immunogens in rabbits、
Supriya Ravichandran,らによる査読済み論文
Science, Translational Medicine 10.1126/scitranslmed.abc3539 (2020).


村上康文◎東京理科大学名誉教授。東京大学薬学系研究科薬学専攻。東京大学大学院修了後、米国・ニューヨークスローンケタリング記念癌研究センターにて、3種のウイルス(SV40, アデノウイルス、ポリオーマウイルス)の研究に従事。癌ウイルス2種類の宿主域がDNA複製プロセスにあることを世界で初めて証明する。アルバータアインシュタイン医科大学(ニューヨーク)にてモノクローナル抗体作製法を習得。

文=村上康文

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