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2021年8月26日にオンラインイベント「Forbes JAPAN|Future BX Dialogue -今、経営者に求められる顧客体験を起点としたビジネス変革-」が配信された。先行き不透明なポストコロナの世界で、企業はどのようにビジネスを成長させていけばよいのか。アクセンチュア インタラクティブは、“BX(Business of Experience)”のもと、顧客視点でビジネス全体・組織自体を抜本的に再編することが必要だと指摘する。その概念の全体像および国内導入時の課題について解説しよう。


第一部「経営者に必要なBX思考とは -Welcome to The Business of Experience」


デジタル技術の進化に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが重なり、生活者ニーズは大きく様変わりした。そうした状況でアクセンチュア インタラクティブが提唱するBXとは、いったいどのようなものなのか。

第一部「経営者に必要なBX思考とは - Welcome to The Business of Experience」では、経済キャスター・瀧口友里奈をモデレーターに、5名の専門家がセッションを行った。

──デジタル化ですでに変わり始めていた生活者ニーズ

口火を切ったのは、日本のアクセンチュア インタラクティブを統括する黒川順一郎だ。生活者ニーズの変化で生じた課題として、黒川は以下の3つのポイントを挙げた。

1 顧客ニーズに即応できていない

「デジタル化やSNSの普及により、生活者ニーズの変化は驚くほど加速しました。しかし、企業は即座に対応できていません。その原因は、企業活動の改善が部門ごとの最適化にとどまっていることにあります。顧客のニーズや期待に応えていくには、部門横串で、テクノロジーを活用してよりアジャイルかつ抜本的な変革をする必要があるのです」

2 似通ったCXの飽和

「カスタマーエクスペリエンス(CX)向上のために、WebサイトのUIや製品パッケージを洗練させることは、もはや当たり前。当然、みんながやれば差異にはなりません」

ここで黒川はBXの先駆者として、スピード配送で“買い物体験”自体を刷新したAmazon、室内が常識だった“音楽体験”を移動中へと拡張した「ウォークマン」(ソニー)を挙げた。確かに顧客体験そのものが、そこでは見事に塗り替えられていることがわかる。

3 企業パーパスへの期待の高まり

「生活者のなかでも、特にデジタルネイティブであるZ世代は、企業のパーパスがどのようなものか、その企業が社会に対してどのような価値を提供するかを重視しています。彼らは企業のスタンスを見極め、消費行動を取るのです」

それらの課題を解決する鍵となるのが、アクセンチュア インタラクティブが提唱するBXだ。

「収益最大化を目的に、各業務部門を効率化し、顧客が使いやすいようCX/UIを改善する従来の企業のアプローチには限界があります。優れた体験を顧客に提供し続けるには、企業活動全体のあり方を顧客視点で抜本的に見直すことが必須です。CEOをはじめとする経営層の皆様には、BXの重要性を認識のうえ、この変革を自ら主導していただきたいと考えております」


黒川順一郎 アクセンチュア 執行役員 インタラクティブ本部 統括本部長


──いま、企業パーパスを問い直す

「BXのかたちは、企業によって異なります。自社が社会や生活者に提供したい価値は何かを考えるときには、まず業界の枠組みを外すことが大切だと思います」

そう語ったのは、アクセンチュア インタラクティブ マネジング・ディレクターの久保 千明だ。Marketing Advisoryというコンサルティングケイパビリティのチームに所属し、業界の豊富な知見でクライアントを支援している。


久保千明 アクセンチュア インタラクティブ本部 マネジング・ディレクター

「なぜなら、買い物をするときに“小売業に行こう”と意識する生活者はいないからです。教育であれば“学ぶ”、保険であれば“毎日を安心して過ごすこと”を目的に選んでいます」

あくまで業界はいち手段に過ぎず、自社の提供価値で生活者ニーズをシームレスに満たすことができるかが大切なのだと、久保は指摘する。

「自社の役割・企業パーパスを問い直すこともBX実現のうえで非常に大切です」

そうしたパーパスを再定義する場合は、社会問題の解決への貢献の要素も重要になってくると語るのは、デザインスタジオ Fjord Tokyo(フィヨルド東京)共同統括 グループ・ビジネス・ディレクターとして、現場をよく知る番所 浩平だ。

「どの企業のサービスを選ぶかは、もはや自己表現のひとつ。これは特にデジタルネイティブに顕著です。

さらに企業のあらゆるタッチポイント(アプリ、Webサイト、従業員、コールセンター、店舗、SNSなど)のすべてが、そうしたブランドパーパスを体現しているかどうかを顧客はつねに注視しています。つまりそれらすべてが顧客体験なのです」


番所浩平 デザインスタジオ Fjord Tokyo 共同統括 グループ・ビジネス・ディレクター

近年、CXによってタッチポイントを最適化するサービスリニューアルでは、限定的な効果しか得られなくなってきたという。それは部署・部門の制約により、パーパスとの一致が不完全なため、矛盾が生じてしまうからだ。

「CEOや経営陣をはじめとして、全社体制で絵図を描けていないと、デザインの現場でパーパスとの矛盾が起こってしまうことも、現実として多々あります」

同じくクリエイティブの立場から、Droga5 Tokyo(ドロガ ファイブ東京)チーフクリエイティブオフィサーの浅井雅也も、パーパスの重要性を指摘。

「ともするとパーパスは、ソーシャルグッドの一貫のようなふわっとしたものと捉えられがちです。しかし個人的には、そうした軽いものだとは考えていません。むしろパーパスは企業やブランドの、生活者に対する“約束”なのだと思います」

そのうえで広告・マーケティングの分野だけでなく、従業員マニュアル、店舗のつくり方やその動線などの細部に至るまで、どこを切っても同じパーパスが一貫して顔をのぞかせなければならないという。

「言語化、視覚化、サービスなどのすべてがパーパスに一致する、それこそが顧客に対して約束を果たすということなのではないでしょうか」


浅井雅也 Droga5 Tokyo チーフクリエイティブオフィサー

──スケールの限界をデジタルで突破する

ブレのないパーパスを定義し、それに則りつつ生活者ニーズに応えること。そのためのすべてが一貫した変革を、経営陣を起点に全社的に行うことが、BXの核心だ。そのことを、20年以上にわたりマーケティング領域を中心に企業のデジタル変革を支援してきた加藤圭介は、こう表現した。

「BXは顧客満足第一のおもてなしを実現します。言ってみれば、サザエさんの三河屋さんのようなものです。家族構成やそれぞれの好みを把握し、ビールが切れるタイミングで訪れて、絶大な信頼関係を築いていく。

ただし理想的な関係ではありますが、ビジネスをスケールしようとすると、途端に物理的な壁に直面します。人手、店舗数、在庫連携など。しかしその壁は現在、テクノロジーによって取り払われつつあります」

スマートフォンなどの普及で、急速にテクノロジーが民主化された昨今、データ活用によって“スケールした”三河屋が出現する土壌が整ったのだ。

「ここから先は事業部などビジネスサイドがよりテクノロジーに積極的に関わっていかないと、顧客の期待に応え続ける体験提供は難しい。さらにニーズが変わり続けることを予測して、経営陣が適切な投資を理解して行っていくことも必要となるでしょう」


加藤圭介 アクセンチュア インタラクティブ本部 マネジング・ディレクター

各領域の専門家からの提言の後、最後に黒川は「生活者のニーズや期待が明白に変わるなか、BXはやるやらないの選択肢ではなく、いかにやるかの段階に来ている。企業ごとに状況や課題は異なるが、変革を全力で支援していきたい」と締めた。

第二部「BXへのロードマップ-目指すべき日本型BXの形-」


BXの全貌とその意味について語られた第一部に続き、後半の第二部は「BXへのロードマップ-目指すべき日本型BXの形-」と銘打ち、日本におけるBX導入事例と課題に対する打開策についての議論が行われた。

──お金のあり方をゼロから考え直した「みんなの銀行」

まずBXの事例として、アクセンチュア インタラクティブ 最高戦略責任者 マネジング・ディレクターの内永太洋があげたのが実店舗、通帳、キャッシュカードが存在しないスマホアプリで完結するふくおかフィナンシャルグループによる「みんなの銀行」(2021年5月サービス提供開始)だ。
「ネットバンキング、インターネット専業銀行など、デジタルネットワークを活用したサービスは、すでに存在していました。しかしそれらはみな、既存の銀行をもとに生まれたものです。


内永太洋 アクセンチュア インタラクティブ本部 最高戦略責任者 マネジング・ディレクター

みんなの銀行は出自が全く異なります。“なぜ銀行が必要なのか、そもそもお金とは何なのか”という前提の議論から始めました。そして生活者がもっとも使いやすい銀行のかたちを求めてゼロから構築したのです」

24時間365日、原則即時に口座開設ができ、支払い、振込、ATM入出金、貯蓄までをスマホ上で完結できるようにし、ユーザーを遠ざけがちな銀行に関する面倒な手続きを「みんなの銀行」は次々とシンプルにしていった。新しい銀行のカタチを体現したUIや体験設計、ブランディングは、国際的に権威のあるデザイン賞「Red Dot Design Award 2021」で日本の企業・団体としては初となる「Brand of the Year」(最優秀賞)受賞という形でも評価されている。

「BXにおいて大切な視点は、顧客体験を自分ごと化ができるかどうか。企業人も家に帰ればみんな生活者なのですから、それほど難しいことではないはずです。目指したのはフリクションレスな銀行体験、誰もが望んでいることではないでしょうか」

発案、システム構築、開業を異例のスピードで行ったことも話題となった。そのためにとった方策は、従来の銀行のつくり方とは一線を画すものだ。

「従来は構築に長年かかっていた銀行システムですが、みんなの銀行に関しては、クラウドベースで構築することによりわずか一年で実現しました。UIデザイン、システム構築、銀行業務など、外部の人材も含めて各分野の専門家が共創するというBXに適した体制で、開発を加速できました」

──早さからの脱却〜「吉野家」のカフェ戦略

“うまい、やすい、はやい”のキャッチフレーズでお馴染みの、1950年代に誕生した日本を代表する牛丼チェーン「吉野家」。その常務取締役で、アクセンチュア インタラクティブ顧問を務めるのが伊東正明だ。


伊東正明 OFFICE MASA 代表/吉野家 常務取締役/アクセンチュア インタラクティブ本部 顧問

「実は吉野家のキャッチフレーズは、70年代から90年代前半は“はやい、うまい、やすい”、その後、いったん“うまい、はやい、やすい”に変わり、そして2001年に“うまい、やすい、はやい”と変わっています。注目してほしいのが、“はやい”の位置。かつては注文から食事、会計までを7分で済ませられる早さが人気でしたが、時代の変遷とともに、いまはスピードの位置が最後になっています」

早さこそが価値。吉野家のオペレーションは早さを基準に構築され、素早く運ぶことのできる馬蹄形カウンターをチェーン店として最初に導入、自動飯盛機をメーカーと共同開発した。

「いまでは“そこまで早く食べる必要はない”という時代となりました。すでにその流れは、いまある約1,200店舗のうち800店がテーブル席を備えた郊外型の店舗となっていることで反映されています」

さらに未来のためにスタートしたのが、吉野家「クッキング&コンフォート」である。内装にこだわり、電源も用意したカフェ形式の店舗で、ゆっくりと食事体験ができるようにつくられている(約140店舗転換)。

「カウンターで肩を寄せ合い牛丼をかき込む状況が、10年後にも存在しているとはどうしても想像できなかったのです」

冒険的な施策だったが、現在の河村泰貴社長が着手し、吉野家のR&D部門である未来創造研究所でアイデアを育てていった。社長直轄で事業を進めたことで成功につながっているという。

──顧客を思う人に事業責任を〜「P&G」

伊東にはさらに吉野家の前職で、P&G「ファブリーズ」のグローバルチームを率いていた経験もある。P&Gは1920年代世界ではじめてブランドマネジメントシステムを開発した企業だ。

「その根幹は、事業責任者が顧客を理解して意志決定する、つまり、顧客を考える人が事業責任を担い、顧客の求めるものを提供することで利益を得る、まさに顧客ニーズ優先の考え方なのです。

企業はそもそも自分たちのビジネスモデルを実現するために組織を部門別に最適化します。しかしこれではBXは実現できない。P&Gで私が担ったのは、そうした仕組みを壊す役割でした。当然周囲には嫌われてしまいます」

そうした状況のなかでは、新規事業を生み出すことが解決策になると伊東は言う。

「設計図の段階から自社の“得意”を忘れて、外部スタッフを取り込みながら、ビジネスをつくり出すのです。そこで小さくても成功体験が生まれれば、周囲の目は変わり、改革を実行しやすくなります」

──日本型BXの理想のかたち

広告/クリエイティブの世界で10年、企業のブランディングを担ってきたギフティ CCOであり、アクセンチュア インタラクティブ顧問を務める長谷川踏太は、企業の好調な数字についても警鐘を鳴らした。


長谷川踏太 ギフティ CCO/same gallery代表/アクセンチュア インタラクティブ本部 顧問

「実際はうまくいっていなくても、誰かが必死になんとかしているというケースは多々あります。すると企業は“問題ない”と楽観視してしまう。それが落とし穴です。脆弱なシステムのなかで、無理やり一部の人のがんばりで数字を補っていれば、早晩仕組みが破綻するのは確実でしょう」

その場合はやはり、外部の目が重要になってくる。長谷川は外部パートナーとの付き合い方について最後に次のように語った。

「総務、人事、クリエイティブ、製造過程などあらゆる面をみて、どこに歪みが生じているかを見つけてくれる存在との共創も、BXを推し進めるために大切な要素なのではないでしょうか」


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「Forbes JAPAN|Future BX Dialogue」

Promoted by アクセンチュア インタラクティブ / text by Ryoichi Shimizu / edit by Akio Takashiro

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