ビジネス

2021.09.10 17:00

「やってみなはれ」は仕組み。危機で見つけたサステナブル・グロースの手法


──サントリーの「やってみなはれ」が仕組みであることを、ローソンでも実証できていたわけですか。

「やってみなはれ」を担保する仕組みはできるのですが、真の意味での「やってみなはれ」実現には時間がかかる。これは「やり抜く」という意味だからです。ある意味取りかかることは誰でもできますが、最後までやり抜くことは非常に大変で、時間がかかります。

その代表例がサントリーのビール事業です。創業者の鳥井信治郎が果たすことができなかった夢に2代目の佐治敬三が挑戦し、事業として成功させたのが現在の佐治信忠会長。これこそ「やってみなはれ」の極地です。トップはそれを自ら範を示さなければならない。

2014年に当時社長だった佐治信忠会長がビームを約1兆6000億円の巨費で買収する際に、「サントリーを変えたい、グローバル化させたい」という強い思いがあったと聞いています。だから、ビームの買収もやり抜いて成功させなければならなかったのです。創業家ではない私を社長にするのも「やってみなはれ」です。挑戦し続けることで人間は成長し、企業の「文化」が醸成されていくのです。


2014年5月、当時社長だった佐治信忠会長(写真右)は米ビームを約1兆6000億円の巨費で買収。同年10月、ビームとの統合を託された新浪は社長に就任。

必ずくる「悪いとき」への備え


──新浪さんの周辺の人たちにリサーチをすると、2つのキーワードを耳にしました。「天守閣経営」と「経営者はグレート・コミュニケーターであれ」という言葉です。これはどういう意味ですか?

私は36歳のときに病院給食の運営会社の社長になって以来、何度も経験してきたのは「よいなと思うときがあっても必ず悪いときがくる」ということ。経営の調子がよいときにこそ、悪いときに備える。

備えの際に重要なのが、先ほど申し上げたパーパスです。自社の存在意義をしっかり見据えて、常にお客さんや社会と向き合っていく。そうすれば、苦しいときに世間から「あなたたちが必要です」と言っていただける。よいとき悪いときに備えるためにアンテナを立てて長期的視点をもつ必要がある。天守閣に立って、遠くを見る先見力を備えることが大切なのです。

プラスティックに対する批判の高まりも認識はしていましたが、ヨーロッパに行くと、「これは案外、速いスピードで日本やアジアでも問題視されるようになるぞ」と気づかされるのです。ペットボトルのリサイクルはもとより、未来のために、使用済みプラスィティックの再資源化技術の開発に向け昨年6月、業界を超えて共同出資会社を設立しました。プラスティックリサイクル技術への投資も行っています。


2030年までにグローバルで使用するペットボトルの100%サステナブル化を目標に掲げる。回収したペットボトルを粉砕・洗浄したフレークから、直接ペットボトルの原型となるプリフォームを製造する世界初の技術を、国内外の企業と共同で開発。

もうひとつ、天守閣で危機やチャンスを察知したとき、それを天守閣から現場に下りていって伝えることも重要です。
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インタビュー=藤吉雅春 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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