ビジネス

2021.09.10 17:00

「やってみなはれ」は仕組み。危機で見つけたサステナブル・グロースの手法


──ローソンが「ダイエー王国の負の遺産」と呼ばれ、株価が半値以下になっていた時代ですか。

「3年で結果を出せ」と言われて、43歳でローソンの社長になり、3年かけて何とか危機を脱した2007年ころだったかな。会社がどこに向かうのか、方向性を明確に示さなければならないと思いました。「セブンイレブンに追いつけ」と言っても、それは存在意義になりません。そこで考え始めたのが、「Who are We?」です。この議論に5カ月を費やしました。

そうして決まったのが、「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」というグループ理念です。いまでいう「パーパス」ですね。「私たち」にはお客様であり、加盟店さんであり、取引先さんであり、株主も私たちもそこに入る。マルチステークホルダーであり、理念を実現して初めて企業価値は向上できる。

短期間でできるものではなく、終わりのないジャーニーです。これを続ける限り、マチに生かしてもらえるし、そのためにはマチを幸せにするローソンでなくてはならない、と。これは立場によって求める「解」が異なるし、自分で考えなければならない。ここでやり始めたのが「コンビニエンス」たるマニュアルを絶対視しないことでした。

──地域と共生するために、具体的には何をやったのですか?

全国の現場を歩いてわかったのです。すべてを東京からコントロールするのは無理だ、と。東京にいたら、地域ごとのニーズはわかりません。地方の高齢化は東京からは想像がつかないほど進んでいるのに、若者向けのカロリーが高い弁当を売っている。弁当や総菜の味付けも地域によって異なるのに、東京がコントロールしようとしている。

たとえば、「いらっしゃいませ、こんにちは」という定型挨拶もやめるようにしました。「地元密着なのに、東京の言葉を使うのはおかしいよね」と言って、「おおきに! まいど!」など地元の言葉に変えると、店の雰囲気が変わるのです。お店って生き物だから、「気」が通っている店になればお客様の購買が変わります。

こうして、東京からの指示を待つのではなく、地域ごとに支社長を置き、仕入れも地域単位でやり、戦略も地域ごとにしました。地域コミュニティによって存在しているのだから、「個店主義」です。

地域の祭りに協賛したり、消防団に協力したり、地域活動も熱心にやりました。結果的に売り上げは大きく伸びました。
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インタビュー=藤吉雅春 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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