ビジネス

2021.09.10

「やってみなはれ」は仕組み。危機で見つけたサステナブル・グロースの手法

サントリーホールディングス代表取締役社長 新浪剛史


──しかし、企業カルチャーを変えるのは並大抵のことではありません。

そうです、価値観の差もあり最初は苦労しました。でも、人間には必ず「善なる心」がどこかにある。社会に還元できることをやってみたいと心のどこかで思っていても、仕組みがそうさせてこなかった。「やってみなはれ」を実現するには、「失敗を是とする風土を醸成し、挑戦しないことを責める」仕組みで回すことなのです。

サントリー大学をつくり、まずは海外グループ企業を含めた幹部社員に対し、サントリーの創業精神や企業理念をしっかりと理解してもらうことを目指しました。


2015年4月、サントリーグループ全体の人材開発・研修活動の総称として、「サントリー大学」を開校。海外のグループ企業を含めた社員に対し、「やってみなはれ」をはじめとしたサントリーの創業精神や企業理念の浸透などを図っている。

また、サントリーが水源涵養活動として全国で行っている「天然水の森」にも参加してもらいました。現場で体感すると感激して、自国に戻って伝道師になってくれる。ビームの経営陣を日本の居酒屋に招待すると、当初はハイボールなんて興味もない素振りを見せていたのに、「これは面白い」と喜ぶ。こうしたリーダーたちの背中を見て、社員たちも日本に来るようになり、当初来日に消極的であったビームの社長は、日本に魅せられ、家族を連れて来るまでになりました。

いまでは、ビームの社員たちは自主的にメーカーズマークやジムビームの蒸留所周辺で「ナチュラル・ウォーターサンクチュアリ」をつくったり、コロナ禍で休業中のレストランの従業員のために、有名シェフたちと連携して食材セットを無料で提供したり、ロックダウン中にいろんな取り組みが全米で広がるようになりました。

「失敗してもいいから、新しいことに挑戦し、そしてやり抜け」と、グローバルで「やってみなはれ大賞」も創設しました。同賞への応募件数はサントリーグループのなかでビームが最も多いのです。


ビームサントリーが手がけるクラフトウイスキー「メーカーズマーク」の蒸溜所では2016年6月、「ナチュラル・ウォーターサンクチュアリ」プロジェクトを開始。米国ケンタッキー州にある蒸留所周辺で植樹などの水源保全活動に積極的に取り組んでいる。

「私たち」とは誰なのか


──社会との互恵関係を築くことで、長期的利益と組織の存続が可能になるのですが、これはサントリーが非上場企業だからできるのでは。

上場・非上場ということではないと思いますが、長期的利益という考え方の原点は、ローソン時代にあります。
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インタビュー=藤吉雅春 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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