ビジネス

2021.09.10

「やってみなはれ」は仕組み。危機で見つけたサステナブル・グロースの手法

サントリーホールディングス代表取締役社長 新浪剛史

かつてないほど急速な社会の変化にリーダーはどう対峙するべきなのか。サントリーと米ビームの統合や、ローソンの経営危機からの再生を指揮した日本を代表する「プロ経営者」新浪剛史が、いまその答えを語る。


プラスティックを使用する企業への世界的な批判の高まりに加え、国内は「現代の禁酒令」といわれる緊急事態宣言が発令。逆風の渦中にいるサントリーホールディングス代表取締役社長、新浪剛史の姿を今年4月、ビジネススクール「IESE」(スペイン)のオンライン講義で見た。

ハーバードビジネススクールと並ぶ世界トップクラスの同校で、新浪は起業家であり作家のジョン・エルキントンと対談を行った。この歴史的危機の真っただ中にあって、新浪が語ったのは「サステナブル・グロース(持続的な成長)」だった。彼にその「解」はあるのか。危機のなかの成長について、“How”を聞いた。


2021年4月、世界トップクラスのビジネススクールである「IESE」のオンライン講義にて。新浪は、企業の持続可能性を測る「トリプルボトムライン」の概念を提唱たことで知られるジョン・エルキトンと「持続的な成長」について対談を行った。

──IESEでの対談で「長期的視点の経営」や「長期的利益」といった「長期的」がキーワードになっていました。こうした考えにいたったきっかけは何ですか。

2014年にサントリーが買収した米ビームの統合プロセスのなかで、短期的な視点の経営を目の当たりにしました。サントリーの創業精神である「やってみなはれ」の真逆だったのです。

社長や経営陣は現場に行かない。現場というのは、メーカーとして最も大切なものづくり(製造)とお客様との接点である営業現場を指しますが、本部のエリートはお客様から遠く、マーケティングとファイナンスだけをやっている。それまで上場会社ゆえ株式市場ばかりを意識し、「いま」の収益を5〜6%伸ばすことにフォーカスして、新しいことへの挑戦は避けている印象がありました。

一方、現状でこの利益を上げているなら、アプローチ次第では、もっと企業価値を上げることができる、とも確信しました。

私たちがやるべきは、ビームにサントリーイズムを移植すること。サントリーが1899年の創業以来、120年以上もお客様に支持いただき、困難な時期を乗り越えられたのは、社会と共生しているからです。創業者である鳥井信治郎が「利益三分主義」を掲げ、事業で得た利益を事業へ再投資するだけでなく、お得意先・お取引先やお客様へのサービス、社会への貢献に使ってお返ししていこうと徹底してやり抜いてきました。
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インタビュー=藤吉雅春 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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