世界のガストロノミーシーンの先駆者が日本酒を再構築

Forbes JAPAN本誌で連載中の『美酒のある風景』。今回は9月号(7月26日発売)より、「TANAKA 1789 X CHARTIER BLEND 001」をご紹介。幾重にもたちのぼるアロマとまろやかなテクスチャーが印象的な1本だ。


分子ガストロノミーという言葉がさかんに聞こえてきたのは2010年ごろだったろうか。当時、世界で最も予約がとれないといわれていたレストン「エル・ブジ」で、シェフのフェラン・アドリアがつくりだす料理は、食材が元の姿をとどめておらず、泡や液体、時には気体に様を変えて供される。この素材を分解し、再構築する、すなわち分子ガストロノミーは現在のイノベーティブ・キュイジーヌへと続く、大きな食の潮流を生み出した。

そして、この「エル・ブジ」でフェランシェフとレシピを共同開発してきたフランソワ・シャルティエが今回ご紹介する酒の立役者だ。カナダに生まれ、主にヨーロッパを舞台にソムリエとして活躍。独自のアロマ理論を礎に、研究者としての顔ももつシャルティエが、宮城県の老舗酒蔵「田中酒造店」とタッグを組んで手がけた日本酒、それが昨夏リリースされた「TANAKA 1789 X CHARTIER BLEND 001」というわけである。

ワイン業界で名を馳せた外国人が日本酒をつくった例は、「ドン ペリニヨン」の醸造者が手がけた「 IWA 」(富山・白岩酒造)が記憶に新しいが、シャルティエの取り組みも17年と早かった。ともに米とブドウという農産物を材料とし、醸造酒である日本酒とワインには共通項も多く、仕上がりをイメージしやすいこともあるだろう。
シャルティエが着目したのはシャンパーニュのように原酒をブレンドするという手法。わざわざブレンド用に開発したという6種の日本酒は、山廃仕込みと生き酛もとづくりを採用し、酒米は地元の「蔵の華」と「美山錦」を使用。さらに、ブレンド後にはより複雑な味わいを生み出すために1年以上タンクで熟成させている。ハーモニークリエイターと称されるシャルティエらしく、幾重にもたちのぼるアロマとまろやかなテクスチャーが印象的な仕上がりだ。

この酒を称して「ここ数年のトレンドとは一線を画すユニークな存在」と語るのは「銀座稲葉」の料理長、稲葉正信である。「最近は芳醇なタイプがもてはやされがちですが、このお酒は繊細でありながらも、一本芯が通った力強さも持っています。外国人がイメージするSAKEらしさもあり、世界で通用する日本酒だと感じました」
世界のVIPに料理を作り続けた稲葉から見える日本酒の世界は、シャルティエの見据えるSAKEとイメージをひとつにするようだ。グローバルな視点で再構築された日本酒の新たな息吹を味わってみたい。



容量|500ml
度数|17度
価格|11000円(税込み参考小売価格)
問い合わせ|田中酒造店(0229-63-3005)
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photographs by Yuji Kanno | text and edit by Miyako Akiyama

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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