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2021.09.09

理想の住まいは自分でつくる。VUILD「デジタル家づくり」への挑戦

VUILD代表 秋吉浩気(左)、BIOTOPE代表 佐宗邦威(右) 写真=曽川拓哉


ひとつ懸念があったが、この春から業界を賑わせている“ウッドショック”(木材の価格高騰)だ。夏になり落ち着いたものの、それでも昨年の2倍程度の高値が続いており、住宅メーカーなどは「先行きが見えない」と漏らす。

しかし、秋吉は「先しか見えない」と言う。

「木がないわけではないんです。不足しているのは、主に柱や梁などに用いられる長さや太さのある規格流通材です。Nestingで使うのは、地元の里山からとれる大径木や小径木など通常は構造材として使われていない丸太です」

つまり、関係がないのだ。実際、横浜の工場で見た柱は、太く長い木材ではなく、細かなパーツを組み合わせて作られたものだった。VUILDでは、林業出身の井上が各地の業者を回り、質や価格を見極めながらパートナーを増やしている。


Nestingでつくる家で最も大きく、軸となるパーツ。ShopBotで切り出した木材を組み合わせ強度を持たせている

家づくりの仕組みを変える


そもそも外材や規格材が多く使われるようになったのは、その方が安価で、それらを用いた家づくりしか発展してこなかったからだ。秋吉は、それを「実態とシステムが乖離している」として、次のように話す。

「いま、家を表現の手段として捉えている人は一握りです。安価な規格材を用い、LDKに代表される画一的な間取りで暮らす人がほとんど。昔は、家といえば地域にある森林資源の生育状況に合わせて、自分の身の丈にあわせて拵えるものでした。地域材を使えば、輸送コストも減らせるし、里山の再生にもつながる。Nestingでは地域毎に森林の状況を見極めて材寸を決めることで、山にお金を落としつつ、住宅コストを劇的に下げたい」

家づくりには、土地選びから木材調達、加工、施工、内装と多くのプロセスがあり、その数だけの産業や人が関わる。各パートでこれまでの“型”の外に目を向ければ、コラボレーションや新規参入の可能性が生まれる。それが地域の問題解決につながると佐宗は言う。

「例えば、地方移住をしたいけれど物件がないという声があります。一方で自治体は、土地はあるけれど人が増えないことに悩んでいます。その土地に家を建てれば、コミュニティができ、お金が流れ始めます。実際に、そうした狙いで地域の事業者が移住者向け住宅を複数棟建てるプロジェクトが進行しています」


木材専用の3Dプリンタ「ShopBot」は現在全国70カ所に導入されている

現在、ベースとなる家のテンプレートはひとつしかないが、今後、建築家と協力しながらバリエーションを増やしていく。そこでは、VUILDの“建築集団”としての顔が生きる。

「現在、大学の教育施設や傾斜面に建つ別荘など、建築事業の仕事として最先端のデザインをいくつか進めています。そういう事例で得たノウハウをNestingにテンプレートとして生かしていきたい」

技術も作品もオープンにし、地域や産業を巻き込みながら、「誰かがつくった家を買う」のではなく「自ら楽しめる家をつくる」世界を目指す。VUILDやNestingは、「家づくり」に関心がなかった層も含めて、多くの人の共感を得ていくのではないだろうか。

編集=鈴木奈央 写真=曽川拓哉

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