第一次産業への貢献。京都のシェフが考える「料理人にできること」

「チェンチ」のオーナーシェフ、坂本健氏


京都にルーツを持つ坂本氏にとって、地元を大切にし、発展させていきたいという気持ちもまた大きい。その表れとして、もう一つ熱心に取組んでいる活動が「あしたの畑」という、自然と食とアートという異ジャンルのコラボレーションだ。この活動では、「次世代が芸術にふれあい、食べることに喜びを見出す希望に希望に満ちた社会」をテーマに掲げている。

発起人は直島でキュレーターを務め、京都に移住した徳田佳世さん。次第にその考えに賛同する京都の工芸家やアーティストが集まり、勉強会などを開くようになった。

その中で話し合われたのが、次世代への憂えだ。自然にあまり触れたことのない若者が、将来アートを創り出すことができるのかという懸念から、日本の美しい景色を継承していくというミッションを掲げた。あるときは陶芸家が、あるときはガラス作家が、またあるときは唐紙師がイベントを行うスタジオを丹後エリアに建築中で、この秋に完成する。

料理人である坂本さんは、丹後のパン屋に焼いてもらったパンでハンバーガーを焼いて食べさせるようなポップアップレストランを行ったり、食育を兼ねて、中学校や高校で料理を作ってみせるワークショップも行う予定だ。

掘り起こしたばかりの土のついた野菜が洗練された一皿になるところを目の当たりにすることで、若い世代にレストランという仕事を体感してもらい、農家があって初めてレストランの仕事が成り立つということを感じてもらいたいというのだ。時には、中学生、高校生が、自分たちの親の農業という仕事を誇りに思うこともあるかもしれない。


コースの一皿めに供する、イタリアンでは定番の生ハムとブッラータ。どちらも国産を使用し、生産者の重要性を伝える

地元の人がつないでこその文化だ。自然のある場所で対話のできるところを作っておかないと、次の世代に何も残らなくなってしまうというのが、「あしたの畑」のメンバーの原動力だ。そのフィールドづくりを現在熱心に進めているのである。

坂本さんは、自然も文化も豊かな京都でレストランを営んでいるからこそ、ジャンルを超えて、食が果たす役割の重要性を伝えることができる立場にあるともいえる。異ジャンルが交わることによる化学反応も含め、今後どんな展開が見られるか楽しみだ。

連載:シェフが繋ぐ食の未来
過去記事はこちら>>

文=小松宏子

ForbesBrandVoice

人気記事