危機意識から生まれた「対コロナ地下駐車場病棟」

「地下駐車場」を臨時コロナ病棟に変えたランバン病院(YouTube / Rambam Health)


コロナ禍という特殊な状況下ながら、役職に任せて強権を発動するのではなく、スタッフと密にコミュニケーションを取ることで徐々に信頼を勝ち取り、分野横断的に協力やアイデアを得ることに成功したハルバーソル院長。リーダーシップとマネジメント能力を兼ね備えた理想的なCEOに思えるが、当の本人は「手違いでCEOになってしまっただけ」と謙遜する。

「私はあくまでCEOという役職を『委任』されたにすぎません。大事なのは私ではなく、病院であり、患者の皆さんです。患者の治療がすべてに優先されます。私のエゴなど、些末なことですよ」

中央集権化した組織には限界がある。自分のエゴを飼い慣らし、仲間を信じて「委任」できなければ、個人はもちろん、組織や社会としてのさらなる成長は望めない。その過程でミスをすることもあれば、恥をかくこともあるだろう。それを恐れるのも自然なことだ。だからこそ、重要なのはその先だとハルバーソルは説く。

「誤りは誰にだってあります。私だってしてしまいます。大事なのは、『ミスから学び、その教訓を次に活かせるかどうか』です」
 
困難な歴史をもつイスラエルと同国民は、「生き残る」には、知恵と勇気が必要であることを痛いほど分かっている。同国は、新型コロナウイルスのワクチンも世界各国に先んじて接種している。また、コロナ禍の「フェイクニュース(偽情報)」とも戦ってきた。人工知能(AI)を使い、変異株やワクチンについて流布されるフェイクニュースを追跡しているのだ。ディスインフォーメーションは、悪意ある者が標的国の政府や国民を撹乱する際に使う常套手段である。今回のようなパンデミックに限らず、災害や紛争発生時に使われる。ソーシャルメディアが普及した現在だからこそ、余計にそのリスクは高い。

地下駐車場病棟、AIを駆使したフェイクニュース追跡、ワクチンの集団接種。もしもへの準備と創意工夫、リスクを取る姿勢━━。危機の最中であっても、この国は常に備えているのだ。起きてしまうかもしれない、次の事態に。

とはいえ、誰だって前例のない事態を前にすれば戸惑うものだ。そんなときは、どうすればよいか?

ノーベル平和賞受賞者で、イスラエルのイノベーションを積極的に進めた故シモン・ペレス首相は成功と失敗を分かつ要因について、自身が立案した「エンテベ空港奇襲作戦」で自国民をテロリストから奪還したときのことを引き合いに次のように語っている。

「(ここで得た教訓とは)勇敢な軍事行動を取るほうが良いとか、悪いとか、そういうことではない。大事なのは、自分が取るべき選択について勇気をもって考える、ということなのだ」

文 = 井関庸介

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