危機意識から生まれた「対コロナ地下駐車場病棟」

「地下駐車場」を臨時コロナ病棟に変えたランバン病院(YouTube / Rambam Health)


パンデミックへの不安が各国へ忍び寄るなか、イスラエルは1月下旬に中国への渡航中止勧告を出すなど、他国に比べて動きが早かった。同国で最初の新型コロナウイルス感染者が報告されたのは、2月21日のこと。クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスの乗客が罹患していた。世界保健機関(WHO)がパンデミックを公式に宣言したのが3月11日。3月下旬、全国的にロックダウン(都市封鎖)したこともあり、第1波は小康状態で済んでいたが、政府は欧米での状況を危惧。事態の悪化に備えて、ランバン病院に冒頭の要請をしたのである。

「地下駐車場病棟」という切り札があったものの、すぐに使えるという訳ではなかった。その理由は、主に4つある。設備、人事、患者への対応、そして政府との連携である。

1つ目は、「設備」だ。紛争時の緊急使用を想定した施設ということもあり、病院は毒ガスなどの化学兵器、放射性物質が使用された際、院内を外部の有害物質から遮蔽する構造になっている。例えば、化学兵器で攻撃された場合、患者は除染作業を経て入院する。ところが新型コロナウイルスの場合、外部の未感染者を院内の患者から隔離しなくてはならない。つまり、真逆の状況である。加えて、発電機や人工呼吸器、陰圧テントといった機材の配置場所を手配する必要もあった。

2つ目が、「人事」である。新型コロナウイルスの症状や感染経路がまだよく分かっていなかった時、ランバン病院では、職員からコロナ治療専属のボランティアスタッフを募ったという。スタッフも不安を抱えていた。病院側は無理強いするのではなく、一緒に戦ってくれる志願者を望んだのだ。

だが、そうは言っていられない事態が訪れる。ある金曜日の晩、急患が増え、集中治療室に付くスタッフを増員する必要が出た。そこで職員に配置換えを告げたところ、集中治療室のスタッフが「我々は志願していない」と拒否したのだ。彼らは外科の所属だった。

「その瞬間、これは内科だけの問題ではなく、外科も含めたすべての医療関係者がかかわるべき問題だと気づきました」(ハルバーソル)

仮に地下駐車場病棟の開設が必要になったとしても、このままでは致命的な人手不足に陥ってしまう。そう考えたハルバーソルは、スタッフ向けに院内報を発行。リーダーとしてミッションの重要性を訴え、病院のマネジメントの状況をつまびらかにした。そして、「不安なのはみんな一緒だ。年齢的に高リスク集団に属していることもあり、私だって怖い。でも、一緒に戦ってほしい」と、院内の医療従事者すべてに理解と協力を求めたのだ。

その一方で、「いまは不安やためらいがあり、かかわりたくないスタッフは教えてほしい。その選択で今後、働く上で不利になるようなことはない」とも伝えたという。院長自身、一日に何度も病棟へ赴き、患者や医療スタッフと時間を過ごすように努めた。最初は不服だったスタッフや、反発していたスタッフもミッションを理解し、共感できたことで、一緒に戦う気持ちになれた。
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文 = 井関庸介

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