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2021.09.14

スタンプを「消す」発想で販売40万個超。人気商品が生まれた背景

「おててポン」は、普通の家庭で起きる日常をヒントに生まれた


商品イメージ画像

おててポンは従来の商品とは違う、逆転の発想と新しい市場で勝負した。多くの人が使ったことのあるロングセラー商品「ネーム9」をはじめ、シヤチハタの主力商品は「残す」ハンコと言えるが、おててポンは従来の製品と一線を画す「消す」ハンコ。今までのターゲットは企業や成人であるのに対して、おててポンは小学校入学前の子供と保護者。そしてインク浸透式で交換可能なカートリッジという仕組みに対して、おててポンは使い切りタイプ。柔軟な発想は、自らの商品を紙に押すだけと定義していないことにある。

「弊社はハンコの会社と言われていますが、印(いん)を“しるし”という捉え方をしているんです。おててポンも、しっかり手洗いを完了したという“しるし”です。企画はすべてこの視点に立って立案しています」。

シヤチハタらしくない商品の企画開発が目標


「おててポン」のヒットに続いて、松田はステイホームの子供向けの商品を企画推進し、「ペタペタおえかき」という水を使わない絵の具の商品化にこぎつけた。発想の起点は、「おててポン」と同様に、家庭で目にする光景だった。

「幼児期に多くの色に触れることは感性と豊かな色彩感覚を養うことができると考えていますが、様々な色づくりができる絵の具を家で使うと、子供は水をこぼしてしまう恐れがあるので、お母さん方はできれば絵の具を使わせたくないというのが本心としてあります。だったら、水を使わなくても色を混ぜてお絵描きを楽しむことができる商品が作れたら、と思ったのです」

指で絵の具を貼り付けて遊ぶ「ペタペタおえかき」も、シヤチハタのインクの技術がうまく応用した。子供向けの商品はほかにも、子供の肌着の前後を教えるスタンプ「お着替えできるポン」などを相次いで発売。商品企画は、松田が携わった。

松田は「シヤチハタのリソースを活用して、新しい分野を開拓できるのではないか」と考え「シヤチハタらしくない」商品を相次いで打ち出している。その視点は、子育て中の家庭に役立つ便利商品を提供すること。自社の技術と、家庭で目にする光景を結びつけて企画に落とし込むものだ。専門的なマーケティング手法も駆使するが、商品化するうえで最も重要なのは「消費者の生の声を拾うこと」と考え、日々アイデアを探していると、松田は言う。

柔軟な視点でシヤチハタ・ブランドを再構築


「ハンコ」から「しるし」へと商品価値を広げ、これまでにない商品を相次いで打ち出すシヤチハタ。製品開発への自由な発想を可能にしているのは、松田いわく「新しい市場構築へのチャレンジを推し進める社風」。それに加えて、新型コロナウイルスでリモートワークが進み、ハンコのデジタル化やハンコ文化の見直しが加速したことも、そうしたクリエイティブな土壌を育んだ。

また、松田自身の資質もある。松田は「商品は何もハンコ型にこだわる必要はない」という考えを持っている。10年前の入社当時から変わらないこの考えは、他業種ではあるが、キリンビールのノンアルコール炭酸飲料「キリンフリー」の発売がきっかけだったという。

「キリンビールがアルコール分0.00%のキリンフリーを発売した時は衝撃的でした。ビール会社だけれど、アルコールではない商品を販売する。この形でもいいんだって、今までの商品に対する考え方や見方がガラリと変わりましたね」

まったくの異業種だが、商品企画のうえでシヤチハタ・ブランドはこうあるべきといった「枠」が外れた瞬間だった。もっと柔軟な視点をもって、商品を企画する。そういう思いでこの10年企画開発畑を走ってきた。そして、これからもその延長線上で「新たなシヤチハタらしくない商品を企画していきたい」と、松田は熱く語った。

文=中沢弘子

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