そうしたなかで、冒険心にあふれた人や、どうしようもないほど気分転換を必要としている人向けに、新しいトレンドが生まれつつある。それは「ワーケーション」だ。自宅でリモートワークをする代わりに、世界各地の面白そうな場所へと移動し、そこで仕事をしながら、新しい世界を探検する暮らしを送るわけだ。
感染が拡大し始めた当初、富裕層は大都市から逃げ出した。ニューヨーク市一帯からは、企業の最高経営責任者(CEO)たちや経営幹部、ヘッジファンドのマネージャー、銀行家など、経済力のある人たちがマンハッタンをあとにして、同州ロングアイランド東端の高級住宅地ハンプトンズへと移り住んだ。富裕層や著名人が集まる「飛び地」のような場所だ。ホワイトカラーたちも、引っ越し業者に電話して、ニュージャージー州やコネチカット州などの近郊へと向かった。
戸建てやアパートの部屋などを貸し借りできる民泊プラットフォームAirbnbは、デジタルノマドや放浪癖のある冒険家を誘い出すチャンスが到来したと察知した。同社は2020年8月、自社ブログにこう投稿した。「かねてから旅行者たちは、Airbnbでバケーションの滞在先を予約し、見知らぬコミュニティに身を置き、新しい文化を探究してきました。Airbnbはこのたび、どこにいても仕事ができるより多くの顧客のために、これまで以上に長期滞在ができるオプションを提供することになりました」
新型コロナウイルスの感染者が多数出ている都会から遠く離れることができる「田舎」の例を挙げると、バーモント州のストラットンやストウ、ウィンザー郡、メイン州の西部やポートランド、モンタナ州のホワイトフィッシュ、コロラド州のサミット郡やスティームボート・スプリングス、バージニア州のシェナンドー国立公園、ニューヨーク州のウティカ、サラトガ・スプリングス、アディロンダックなどがある。
国として米国人を誘致したところもある。観光収入を失った国々は、新たな収入源を必要としていたため、特別ビザを発給して移住を促し、温かく迎え入れた。たとえば、バルバドス、エストニア、バミューダ、ジョージアといった国々は、米国人に門戸を開き、移住して働き、税金を納め、経済に貢献してほしいと呼びかけた。バルバドスの首相ミア・モトリーは公開書簡のなかで、バルバドスにぜひ移住してほしいと熱心に訴えた。「私たちの美しい島国バルバドスを代表して、みなさんに歓迎の意を表します」
バケーションレンタル検索で急成長を遂げるトラベルテック企業「Holidu」のマーケティング・マネージャー、サラ・シドル(Sarah Siddle)は、こうした動きについて次のように話す。「ここ1年半の出来事は、私たちの働き方をがらりと変えた。そして、仕事をするために、必ずしも週5日オフィスに通う必要はないことを証明した」。同氏は、どこかの面白そうな国に住んで働くことは、有給休暇を使わずに「もっと知りたいと思っている旅先での滞在期間を延ばすために最適の方法」だと指摘する。
英国を拠点とするHoliduはこのほど、「ビジネスとレジャーをミックスする」ワーケーションに最適な世界の都市リストを作成した。「すべての旅好きなリモートワーカーが重要視するさまざまな要素を分析し、それらをもとに、世界の都市をランク付けした」とHoliduは説明する。
Holiduは、世界150都市を分析し、働きながら地元の文化に浸ることができる最高の都市を決定した。ランキング作成にあたっては、寝室1室のアパートの賃料や、ビール1杯の料金、1日の平均日照時間、インターネット接続環境、挑戦できるアクティビティの種類などを調査した。