株式市場が注視するのは、次の首相の「外交戦略」

9月3日、菅義偉首相は自民党総裁選に出馬しない意向を示した(Carl Court/Getty Images)


ところが、買いが一巡した後は円が売られ、110円台へあっという間に逆戻り。相場用語で使われる「いってこい」の展開となった。

岡三証券の武部力也シニアストラテジストは「日米間の経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)格差やそれを反映した金利差に大きな変化はなさそうとの読みから、(円に対するドルの下落を)待ち構えていた向きのドル買いが入った」などと解説する。「株式市場での“レジームチェンジ”に対する期待度の高まりに比べると、外為市場は冷静だった」(武部氏)。

ドル・円相場のトレンドが大きく変わらなかった背景にあるのは、「誰が次の首相になっても日本の前向きな変化は見込めそうにない」というマーケットの読みである。それだけに、後継者選びは株式相場の先行きを占ううえでもきわめて重要だ。

冷や水となる要素


ポスト菅をめぐって、ニッセイ基礎研究所の井出真吾・チーフ株式ストラテジストは「コロナ対策は誰がやっても変わらないだろう。河野太郎規制改革担当相や茂木敏充外相などむしろ、外交面で手腕を発揮できそうな人物が望ましい」と注文を付ける。「米国と中国の対立下で今後、日本企業は中国で従来のように稼ぐのが難しくなる。そうした中で、対中戦略の見直しなど外交能力が問われるはず」というのが井出氏の見立てだ。

多くの市場関係者が注目していたのは日本の政局でなく米国の雇用。日本時間の3日夜に予定されていた同国の8月雇用統計の結果次第で、中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和策の縮小、いわゆる「テーパリング」が前倒しになるとの警戒があった。

フタを開けてみると、特に重要視される非農業部門の雇用者数は前月比23万5000人増と市場予想(72万人前後のプラス)を大幅に下回る伸びにとどまり、逆に雇用不安がくすぶり続けていることを印象付けた。

それでも、同日の米国株市場の下げは限定的。多くの機関投資家が運用のベンチマークにしているS&P500種株価指数の終値は前日比1.52ポイント安の4535.43ポイントで、目先の「ビッグイベント」をほぼ無事に通過したといえそうだ。これを受けて今後の日本市場では先高観が勢いを増し、日経平均の3万円奪回を唱える声が広がる可能性もある。

だが、首相の後継者に対して「現行の路線を踏襲するにすぎない」との見方が強まり、楽観に傾く市場に冷や水を浴びせるリスクには注意が必要だ。

連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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文=松崎泰弘

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