株式市場が注視するのは、次の首相の「外交戦略」

9月3日、菅義偉首相は自民党総裁選に出馬しない意向を示した(Carl Court/Getty Images)

「菅義偉首相が自民党総裁選に出馬しない」とのニュースが日本の金融市場を駆けめぐった。この一報が3日の昼前に伝わると、株式相場は急騰。日経平均株価先物の9月限は2万8000円台後半から正午に前日比720円高の2万9190円まで跳ね上がった。

昼休みを挟んで0時30分から午後の取引が始まった現物市場も、首相の退陣報道を歓迎した。買い物が膨らんで日経平均株価は午後1時32分に同606円高の2万9149円まで上昇。結局、前日よりも584円高い2万9128円で同日の取引を終了した。

国内の株式市場のメインプレーヤーは外国人投資家。東京証券取引所1部の売買代金シェアは全体の約6割を占めている。海外勢はかねて「政局の安定を好む」とされてきた。にもかかわらず、不出馬の報をきっかけに株価が急上昇したのはなぜか。SMBC信託銀行の山口真弘・投資調査部長は「停滞ムード解消への期待が高まったため」と指摘する。

新型コロナウイルスの感染対策は手詰まりぎみ。景気の先行きにも不透明感が漂う。人流の抑制が小売り、外食、運輸などいわゆる内需関連企業の収益を圧迫。21都道府県に発出されている緊急事態宣言を期限の12日までに全面解除するのは難しく、コロナ対策と経済活動の両立など新常態(ニューノーマル)への移行も道半ばといえる。

こうした中で首相退陣の意向が伝わったのをきっかけに、株式市場では閉塞状態の打開へ向けた楽観論が一気に台頭。投資家の間に「次の自民党の総裁が誰になろうと経済政策などが動き出すとの思惑が強まった」(山口氏)格好だ。

外為相場はいってこい


株価は人心一新に伴う大規模な経済政策の発動を催促していた面もある。日経平均は8月20日の取引時間中に一時、2万7000円を割り込んで年初来安値を更新。同日は22日に投開票が行われた横浜市長選直前の営業日だ。同市長選では菅首相の全面支援していた候補が敗北を喫し、自民党内での首相に対する求心力の低下を招いたとされている。あにはからんや、日経平均は翌23日以降、上昇トレンドへ転換。20日から2日までの値上がり幅は1500円あまりに達していた。

もっとも、3日の株高は短期の値幅取りを狙う投資家の買いによって押し上げられた感が強い。実際、日経平均が午後1時32分に同日の高値を付けた後は伸び悩んだ。市場には「自民党総裁選後の衆院総選挙で自民党が大敗する可能性が低下した」との解釈もあったが、山口氏は「そのシナリオまではまだ、織り込まれていない」とくぎを刺す。

株式市場とは対照的だったのが外国為替市場の反応だ。首相による事実上の退陣表明をいったんは円買い材料と受け止め、1ドル=109円79銭前後まで円高ドル安が進行。政局の一段の混迷に対する懸念から、「安全資産」と位置付けられる円を買う動きが優勢となった。
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文=松崎泰弘

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