リモートワークで増える腰痛
ナッケムソンの図も受け、それでは自宅でデスクワークを長時間する上で気をつけるべき点について考えてみましょう。
まず、画面とキーボードが一体になったノートPCは、下向きに覗き込む形になるため、首や腰に負担がかかり、あまりよくありません。モニターを利用しましょう。さらに、キーボードとモニターの距離は、適切に離れていたほうがいいでしょう。
ちなみに先日、クリニックにいらっしゃった患者さんは、右方向にテレビがあるダイニングチェアで自宅勤務をしている方でした。テレビを見ながら長時間仕事をしていたところ、右の腰が痛くなって来院、というケースでした。
この方のような事例はコロナ以降、少なくありません。これだけリモートワークの期間が本格的に長くなってきた今、なるべくオフィスと同じ高さのデスクと椅子を用意し、モニターも導入することが望ましいと思います。
また、椅子に「浅く」座ることは、腰に非常に負担をかけますから、お薦めできません。
腰痛には「床に近い」暮らしはNG。「洋式」の生活を
「ソファーでリラックスして15分くらい」はOKでも、5〜6時間も続けることはよくありません。
腰が痛いからとソファや床に横向きに、脚を投げ出してうつぶせで、の体勢でワークする方がいます。が、基本的に腰の悪い方には「床に近い」動きはお薦めしません。股関節と腰の下に負担がかかるのでよくないのです。畳の暮らしも向きませんね。
「床に近い」暮らしは腰に負担も(Westend61/Getty Images)
「床に近い」暮らしは、立ち上がるときに腰や下肢に負担がかかります。病院やリハビリ施設にたいがい、「洋風」の家具、しかも浅くはかけられない椅子ばかり置いてあるのは、そのためもあります。
去痰薬が膝軟骨に効く?
腰痛人口はとても多いため、効果のある治療方法を開発することは経済効果的にも着目されており、新しい治療へのアプローチもかなり旺盛にされています。
たとえば私が所属している慶應義塾大学整形外科、脊椎脊髄班では、椎間板変性に対する新たな治療薬となる可能性がある飲み薬、抗酸化剤「Nーアセチルシステイン」の臨床研究(※注2)を2021年3月より開始しています。
「N-アセチルシステイン」は本来、小児用の「去痰薬」(痰を切る目的)として使われたり、痛み止めの中毒緩和に使われたりする、国内の薬事法認可済みの薬剤です。これまでの基礎研究の結果から「腰椎椎間板や関節軟骨の変性予防」に優れた効果があり、椎間板の変性を伴う腰痛患者さんに有効である可能性が高いと考え、臨床研究を始めています。これまでの私達の長年培われてきた基礎研究のデータから、関節軟骨や椎間板ではその有効性が示されています。
腰痛は悩んでいる人が多いわりに、従来の医療では、リハビリテーションや痛み止め、手術治療などの限定的な選択肢しかなく、その「間」を埋める手法がなかったため、今回の研究で「Nーアセチルシステイン」が有効性が証明されれば将来的に多くの腰痛の患者さんが救われると思います。