洋上風力による電力目標量は、現在の27万Kwから、2040年にはおよそ167倍の4500万Kwとしており、その期待の大きさがうかがえる。
「地球の71.1%が海。広大な海上を吹く風が作り出す、クリーンな電力には無限の可能性があると考えられる。船や海が好きだったということもあり、テクノロジーで日本のみならず世界に貢献できることがあると思い、設立に至った」
そう語るのが、2021年3月22日に株式会社パワーエックス(PowerX)を立ち上げた伊藤正裕(いとうまさひろ)だ。
伊藤は、元ZOZOで前澤氏と共に「ZOZOSUIT」や「ZOZOGLASS」など、さまざまなプロダクトの開発を手がけ、グループのイノベーションとテクノロジーを牽引してきた。
彼が新会社の事業として考案したのは洋上風力で発電した電力を、バッテリーに溜めて「船」で運ぶこと。知人から「運営する病院船を平時にどう活用したら良いか」と使い道を相談された際に着想したものだ。
この事業は、伊藤がZOZOを退職する際に前澤友作氏へ伝える機会があった。「次は何をやるのか」と問われ、伊藤が構想を説明すると、前澤氏は「面白いアイデアだ」と太鼓判を押したという。
海底ケーブル不要の「電気運搬船」
そもそも電気を船で運ぶ必要性は何か。
伊藤は「日本は遠浅の海が少ないため、着床式(風車の支柱が海底まで達している)の風力発電が可能な場所は限られている。今後、電力目標値を達成するためには浮体式(風車が海洋に浮いている)の普及が重要」と話す。
そこでPowerXが「電気運搬船」を開発し、浮体式の洋上風力発電の普及に貢献しようとしているのだ。
「電気を運搬するというのは全く新しい送電方法。海底ケーブルの敷設は不要で、より風の強い、より多くの電力が得られる、岸から遠い場所にも洋上風力発電所を設置することが可能になる」
つまり、船がケーブルに代わって送電の役割を担うことになる。
蓄電池を積載したPower ARK100(提供=PowerX)
2018年度の日本のエネルギー自給率はわずか11.8%。うち85.5%は化石燃料によるもので、そのほぼすべてを海外からの輸入に依存しているのが現状だ。
船により輸入された炭素エネルギーを燃焼する発電方法ではなく、電気を電気のまま船で運ぶという新しい方法で、国内外の自然エネルギーの爆発的普及が見込まれる。