1/100万秒まで計った東京五輪の舞台裏。競技を面白くした「オメガ」の活躍


仕組みはこう。1秒になんと1万枚もの画像を撮影し、そのスリット状のデジタル写真を即座に合成。

写真をもとに選手の胴体がゴールをくぐった瞬間を審判が厳密にジャッジし、公式な順位とタイムを決めるのだ。

情報でスポーツをもっと面白くする


陸上トラック競技だけを見ても、すでに想像の向こう側の領域へと突入するオメガの計時技術だが、今大会からはさらなる秘密兵器が投入された。

その中核を担うのが、モーションセンサーとポジショニングシステムである。簡単にいうと、動作&位置測定機能だ。

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左が陸上競技などで選手のウェアなどに取り付けられたタグ。右がオープンウォータースイミングなどで選手がタグを着用する際に使うリストバンド 。

各競技に最適な形で選手に装着されたモーションセンサーが、多数の情報を受信機と交信。

これにより、競技中に選手がどんなコースをどう動き、どう加減速したかがリアルタイムで見られるのである。

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こちらは馬術競技でモーションセンサーによって集められた情報を表示した画面。オリンピアンの技術の凄みや勝敗を分けたポイントはどこかを、瞬時に数字で見てとれる。

競泳選手のストローク回数、バレー選手のジャンプの高さ、トランポリンを飛んだ際の身体の姿勢、馬術やセーリングの走行ルートと速度……。

その具体例は枚挙にいとまがなく、この新技術のおかげで、たとえばTV視聴者はより臨場感に満ちた体験ができるようになる。

順位や最終タイムといった結果だけでなく、可視化された選手の細かな動きや競技の流れによって、経過までをより楽しめるようになるのだ。

それはメジャー競技に新鮮な驚きを与え、逆にマイナー競技であればどう楽しむかの手引きにもなるだろう。

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オリンピック・パラリンピックには、毎回オメガから数多くのタイムキーパーが参加している。

しかも、TV放送などで表示される情報はこれらの機器によって収集されたもののごく一部に過ぎない。その量は極めて膨大で、約2000種類もの情報を競技中に計測し続けているという。

データのすべてを開示すると視聴者は逆に混乱をきたすだろうが、実はそれらの細かいデータは選手や各競技協会へと渡され、さらなるスポーツ技術の向上にも役立てられているのだ。

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カメラやセンサーやモニターなど、もはや時計とはまっとく関係のない方向性に進化を続けるオメガのタイムキーピング。我々としてはありがたい限りだが、オメガはなぜここまでのことを行っているのだろう?

実際に、この日アテンドしてくれた広報担当者はこう話してくれた。

「実際に本国のCEOに尋ねても、この計時技術の向上が腕時計へ還元されることはない、と断言しています。すべては精度の追求のため。その意味では、タイムキーピングも時計と同様に、オメガらしい哲学が流れていますね」。

たったひとつ、変わらないもの


圧倒的ハイテクノロジーの連続に、後ろ髪引かれる思いで会場をあとにする。その際、ある物が目に入った。

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 最先端技術を駆使した機器だらけのなかで、ひと際存在感を放つ鐘があった。

TOKYO 2020の印とともに、オメガのロゴが刻まれたラストラップベルだ。

選手に最後の一周であることを伝え、ラストスパートを促すこの鐘だけは、今も昔と変わらない製法を用い、スイスの職人が一つひとつ鋳型に流し込んで製造されるという。

精悍な姿の鐘から高々と鳴らされる音には、選手が“ラストラップ”に至るまでの膨大な時間と努力に報いる最高の舞台を用意するという、オメガの変わらない想いを感じる美しさがあった。

(この記事はOCEANSより転載しています)

取材・文=増山直樹

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