政治にビジネス視点を 最年少女性市長の挑戦

「あなたはダメ、できないよ」。最年少の女性市長、内藤佐和子は、そう言われたことが何度もある。その経験こそが、彼女を変えてきた。内藤は、3人きょうだいの長女。父のように製造業の社長になりたかったが、「女の子はダメ」と言われた。それから将来は「自立した女性になり、社会に貢献したい」と弁護士を目指し、東京大学に入学。しかし、20歳のとき、国の特定疾患の神経難病「多発性硬化症」に罹患(りかん)。弁護士の道も困難になった。

「何をやればいいのか、わからない。だから、何でもやってみようと思ったんです」。ビジネスを学ぶ学生団体の代表や、経済雑誌の学生記者を務め、さまざまな業界の社長や創業者と知り合う機会を得た。ビジネスコンテストに出場し、優勝。病気の経験を書いた自著も出版した。その後、実家の家業に携わりながら、故郷・徳島のまちづくりにかかわるようになり、政治へのもどかしさを感じるようになった。

2020年4月、現役市長を破って徳島市長に初当選。政治経験なし、最年少の女性、子育て中で、難病もある。それでも自分が「できない」とは思わなかった。いま、自分だからこそできる仕事があると実感している。「市も、会社と同じで経営するという概念が必要です。行政は予算を使うほうに力点が置かれていますが、税収や人口増加のためには経営やマーケティングの考え方、ビジネス視点も重要。顧客の立場に立った事業のスクラップアンドビルドを考えています」。

内藤は昨年、保育施設整備の補助事業見直しを発表。子育て支援の公約を破るのかと大きな反発が起きた。「建物を増やしても保育士が増えなければ待機児童は減りません。本質的な社会課題解決の方法を論理的に考える、当たり前のことですよね」。

最近、これまで政治参加が進まなかった女性や若者が声を上げやすくなったと感じている。「空気を読まなくていい。世の中を変えたいと言い続けて、未来の社会を徳島からつくっていきたいです」


ないとう・さわこ◎1984年、徳島県生まれ。東京大学法学部卒。同大在学中に難病の「多発性硬化症」にかかった経験から『難病東大生─できないなんて、言わないで』を出版。地元テレビ番組のコメンテーターなどを経て、2020年、徳島市長就任。

文=成相通子 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN No.083 2021年7月号(2021/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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