ゆくゆくはSHIROの“聖地”に?
今井がプロジェクトの構想を始めたのはおよそ3年前。人気商品が品切れしてしまうという課題があり、製造設備体制を改善すべく新工場建設先を探していた頃だった。本社機能が東京にあるので、関東近郊の静岡県や千葉県が候補に挙がったが、住んだことも縁もない場所で、ピンと来なかった。
ある日、自社で砂川市の江陽小学校跡地の土地を保有していることを思い出した。そして、「ここに工場をつくることで雇用を生み出せる。子どもたちも楽しめて観光資源となるような施設をつくれば、砂川市への貢献になるかもしれない」と考えた。
プロジェクト発足にあたり、市議会議員や地元の教職員らが参画する実行委員会を組成。施設の着工に向けて、より多くの砂川市民の意見を取り入れるワークショップも実施している。あくまでも、プロジェクトの主役はシロではなく子どもたちと市民。施設の名称は今後、市民や子どもたちと決める予定だ。
砂川市は観光地も少なく、車で札幌から旭山動物園行く際の“通り道”にすぎないかもしれない。しかし今井は、大きな可能性を感じている。
「南フランス発の化粧品メーカー・ロクシタンは、アクセスの良くないプロヴァンス地方に工場を構えていながら、“聖地”として世界中からファンが訪れている。SHIROが生まれた砂川のまちを施設や体験で盛り上げ、SHIROも世界中にファンを増やしていけば、“聖地”として国内外から人を呼べるはず。それが本当の意味での地域貢献になると思っています」
行政ができないことも形にできる
「みんなのすながわプロジェクト」は、新工場と付帯施設の建設だけではなく、砂川市全体への横断的な取り組みだ。
「『施設をつくって終わり』ではなくて、砂川市全体を良くしていかないとシロが100年先も砂川で生き続けていくのは難しい。5年後10年後の砂川の姿を見据えながら、子どもたちがこのまちに残りたくなるような雇用も創出していきたい」と今井は意気込む。
その一例が、北海道ベースボールリーグの新球団「すながわドリームリバーズ」の設立だ。雇用促進に加え子どもたちへ夢を与えるための取り組みで、2022年春の参入を予定している。トライアウトで獲得した約20人の選手は、砂川市民として入団。試合や練習がない日中は、シロや砂川市内近郊の企業で働く。さらに、私立小学校の設置も検討している。
このように行政ではできなかったことを、資金力やアイデアを駆使して形にしていけるのは民間の強みだ。これらの施設や団体は、利益が出て持続可能な状態になれば、ゆくゆくは地元のまちづくり会社などに委譲する計画という。
地域説明会で登壇する今井
6月の地域説明会には、地域の方々やSHIROのファン、行政関係者まで、道内から約100人が集まった。説明会後に参加者から募ったアンケートでは、「壮大だけど、どうせ最後までやらずに逃げちゃうんでしょ」「砂川のことなんて忘れてたと思ってた」「信用できない」という厳しい言葉もあったが、今井は冷静だ。
「ポスターを貼ったりサイトをつくったり、ちっちゃいことでも真面目に精一杯やって『動いているよ』というのを見せながら信頼してもらうしかありません。あとは、目で見てわかる“施設”を建てていくことで、気持ちの変化が起こるのを待とうと思います」