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World Restaurant Awards審査員


次の皿が冒頭に紹介した「バラ科のカルパッチョ」だ。この時に印象的だったのが、駒瀨さんが、ペアリングの国産ライチの絞りジュースの香りを「音域」で表現されていたこと。


バラ科のカルパッチョ(C)Moderniss & Co. 2021

「フルーツはソルダム、ラズベリー、アメリカンチェリーなど、バラ科の中でも赤いものだけ。ライチはバラ科ではないけれど、香りの華やかさのトーンは同じ音域にあると思うので」。実際に音が聞こえるわけではないが、こういった独自の表現は自分の中の感覚を音域で伝えるのが「しっくりくる」からだという。

黒文字茶と共に、「桃のステーキ」が提供された時には、「この桃を凝縮させた自然の旨味に唯一欠けているのが高音域(酸味)です。そしてそれは育てた桃の葉の香りが補ってくれるので是非、香りと共に」と声がかかる。


干しもも(C)Moderniss & Co. 2021

そんな駒瀨さんの独自の「感覚」を通した味を、楽しみにきているファンも少なくないようだ。

5万5000円が含む「無形価値」


好きなものは「ハンサムなもの」、という駒瀨さん。

「『器』も『受け取る側の感覚』も、デザートの大事な構成要素です。例えば、大豆コーヒー(焙煎した大豆を6時間かけて水出ししたもの)は低音なので、あの色のあの形、唇に当たった時の感覚からこの器、というようにデザートの意図に沿った器、引き立つ器を選びます」


大豆コーヒー(C)Moderniss & Co. 2021

今回のイベント用には、主催者で、アーティストのマネージメントと支援を行なっているモダニスアンドカンパニー代表取締役の山田健仁さんがそのネットワークを駆使して、美術館に作品を納めているトップアーティストたちにも特別に器を作ってもらったという。

コースの至るところで印象的に使われていた光と影は、“蛍手”と呼ばれる透彫の名手、陶芸家の新里明士さんの展示会に訪れた際に得たインスピレーションによるもの。光と細胞のデザートの演出にもそれが生きている。

五感を刺激し、知的欲求を満たす食体験とその空間、演出、作家や生産者の方々の思い。5万5000円はそんな全ての無形価値を含めた総合価格なのだ。

草間彌生さんが、自身の目に映る水玉の世界を描いたように、駒瀨さんも、自らの鋭い五感で捉えた植物の世界を、皿の上にあらわす。

「これが、わたしにみえる世界です。あなたにはどんなふうにみえますか?」

そっと差し出されるデザートの数々が問いかけてくる。

文=仲山今日子

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