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World Restaurant Awards審査員


「好きなことは全部『食べる』こと。おままごとが好きで泥や葉っぱでお料理したり。この仕事を選んだのは、子どもの頃からお家でお菓子を作らせてもらっていて、作るとみんなが喜んでくれるのがとても嬉しかったから。これが仕事になったら毎日楽しいだろうな、と思って」

そこで思い出したのが、最初の皿「桃のキャラメリゼ」で、ドリンク代わりに提供された「香りのペアリング」だ。ガラスのシャーレに切った桃の葉が入っていた。


香りのペアリング(C)Moderniss & Co. 2021

「振ってみてください。酸素に触れることで、時間と共に、よりフルーティに香りが酸を帯びてきます。コースの間にだんだん変化していくのでご自身で香りを育ててください」

新芽であろう柔らかな葉は、確かに甘く青い桃の香りがする。

そのままかぐだけでなく、丸めたり、叩いたりすると、細胞が壊れて香りがしてくるのだという。カウンター席のそこここで、パチン、パチンと音がして、自然と皆が笑顔になっていった。

果物の知らなかった一面を知る


「テーマになっている食材の、気づかなかった色々な面を見せてくれる。だから、好きなんです」。テーマが変わる毎に必ず通っているという隣の常連さんが手のひらで葉を丸めながら教えてくれた。

確かに、その通りだ。筆者は仕事で6年間、桃の名産地・山梨県に住んでおり、季節になると、毎日のように桃を食べていた。それなのに、桃の葉の香りをかぐのは初めてだ。駒瀨さんは、こんな風な「発見」を積み重ねながら、幼少期を過ごしていたのではないか、とふと思った。

そこでさらに、「植物は耳が聞こえるので話しかけてあげるとより良い香りに育ちますよ」と駒瀨さんが促す。

まるで、植物の代弁者のよう。「人間の世界」と「植物の世界」というものが存在するとしたら、駒瀨さんは限りなく植物の世界に近いところに立っている人だ。

そして、桃のキャラメリゼ。「果物は、その皮にこそ一番「らしさ」が凝縮されていると思うのです」と言いながら差し出されたのは、とてもシンプルな一皿だった。無農薬自然栽培の桃の表皮に砂糖を振り、キャラメリゼをしただけだという。その半身の桃は透明の球体の氷に立てかけられていた。


桃のキャラメリゼ(C)Moderniss & Co. 2021

「表面のキャラメリゼしたての部分は温かく、氷は球体なので冷やされるのはその接点の一点のみ。温かさと冷たさ、カリカリとジューシーさ。熱で妖艶に色気づいた桃の佇まい。様々な情報が一気に襲ってくると、一瞬脳が混乱しませんか?」

全てをあらゆる感覚で捉えながら一つの桃と向き合い、様々な側面を目一杯楽しむという趣向だ。

文=仲山今日子

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