東京にある中華料理店のランチメニューが、本場の味に近づいている理由

これが「酸菜魚」ランチ980円

ここ数年、都内の中華料理店のランチメニューが本場の味に近づき、本格的になっているのをご存知だろうか。

これまで中華の定食メニューといえば、麻婆豆腐やホイコーロー(回鍋肉)、酢豚、チンジャオロース(青椒肉絲)のような、長く日本の人に親しまれてきた定番の料理ばかりだった。

ところが、筆者が「東京ディープチャイナ」と呼ぶ、中国語圏の人たちが提供する本場の料理が、ライスやスープにちょっとした付け合わせとデザートとともに、1000円以内のランチとして食べられる店が増えているのだ。

筆者はこのコラムでも、東京ディープチャイナの特徴として、中国各地の珍しい地方料理が味わえるようになったことと、最新の現地の食のトレンドが体験できるようになったことの2点を挙げてきた。

そのうち特筆すべきは、現地の食のトレンドである「麻辣」「羊」「麺」という3つのジャンルの最新の料理が味わえるようになってきたことだ。そして、それら3つの料理群から新しいメニューが採り入れられることで、これまでの日本の中華にはなかったランチが生まれているのである。

羊肉を使った中華風生姜焼きも


「麻辣」でいうと、たとえば池袋の四川料理店「蜀一蜀二」のランチメニューには、白身魚の酸菜鍋である「酸菜魚(スアンツァイユィ)」や牛肉の四川風煮込みの「水煮肉片(シュイジューロウピエン)」のような、夜の席ならメインとなる料理が入っている。

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「水煮肉片」は牛肉入りだが、料理としては白身魚入りの「水煮魚」が有名

この2品はいまの中国では四川料理の人気メニューとして広く知られ、特に酸菜魚については、筆者は次のような思い出がある。

2010年代半ばの上海でのこと。取材でお世話になった地元の若い女性2人にランチをごちそうすることになり、彼女らのリクエストで酸菜魚の専門店に行くことになった。「いま(当時)上海でいちばん話題の店」だからという理由だった。

麻辣の本場である重慶発祥の酸っぱく辛い白身魚の鍋を、カメラマンも交えて囲むことになった。上海のオフィスワーカーたちが、昼間から鍋のように食べるのに手がかかり、「重め」の料理をごくふつうにランチにしていることは知っていた。

2000年代にはひとり鍋のランチが流行していた記憶もあり、中国の人たちの食に対する思いの強さを感じた。それがついに東京に持ち込まれたかと思ったものだ。

上海では大鍋の酸菜魚が出てきて、4人で取り分けたのだが、東京では日本式のランチであるため、ごはんやスープが付く。しかも、ひとり用のランチにしてはずいぶん大きな器に入っているのには驚いた。

「羊」の料理は、いま都内のチャイニーズ中華のランチメニューで最も増えているものだ。神田にある中国東北料理店「味坊」は「食べログ中国料理TOKYO百名店2021」にも選ばれた人気店だが、この店の黒板に書かれたランチの最初のメニューは「ラム肉の生姜焼き定食」である。

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これが「ラム肉の生姜焼き」800円

生姜焼きといえば豚肉が一般的だが、同店は羊を使ったものが売りであり、基本は中華料理ではあるが、あえて日本の人になじみのある生姜焼き風にしているのだ。羊肉は豚肉に比べ、脂身が少ないぶんヘルシーと言われるが、甘辛く味つけされた羊肉の食感は豚肉とはまた異なった味わいがある。
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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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