佇まいには「普段の生活」が滲み出る 松平健流、成功への流儀 

Jun Sato/Getty Images


「自分の器を小さく見積もるな」


2年が経ち、ドラマで初の主役を得るまでになりますが、その後は1年半にわたって仕事が来ることはなかったといいます。

「前にいた劇団から、ゲストに出てほしいという話があったのですが、『お前、元いたところに出たら、また元に戻っちゃうよ』と諭されていました。話は来ていたのに、実は裏で勝先生が断っていたんです。主役以外はやる必要ないと」

仕事のない松平さんに、勝さんは給料を払い続けます。そして3年。待ちに待って出会ったのが、大ブレイクする『暴れん坊将軍』でした。

「勝先生は自らの口では言わなかったけど、『自分の器を小さく見積もるな』ということだったのかもしれません」

『暴れん坊将軍』をめぐっては、松平さんへのインタビューで鮮烈に覚えている話があります。

アドバイスなどほとんどすることのなかった勝さんの数少ない「指導」のひとつが、「将軍らしく遊べ」だったのです。主役に抜擢された後、安い居酒屋で飲んでいた松平さんは、そう言われて勝さんに叱責されたのです。

「将軍役なんだから、もっといいところで遊べ! 安い店に行っていると、それが演技に出る。借金してでも高級店で飲め!」と。

松平さんは、東京にいるときは銀座の高級クラブへ。撮影で京都に滞在中でも、祇園の一流クラブに夜な夜な繰り出しました。

「まわりにいるのは、一流の人たちばかりです。そうすると、こういうところで自分も遊んでいるんだ、という『自信』が自然と沸き立つようになるんです」

スタッフやレギュラー陣も引き連れて、遊び回りました。

「そうすると、リーダーとして、みんなを楽しませようという気持ちにもなる。ただ、給料は上がったのに、遊びでお金はすっかり消えてしまった(笑)。でも、遊びで得た『信頼』が大きかったからこそ、それが現場でも活きてきて、結果的に回を増すごとにレベルの高いものができるようになったんです」

常に主役クラスを演じるからには、作品の成功と失敗の責任までを負う覚悟が必要になると、松平さんは語っていました。

「勧善懲悪のストーリーでは、主役には『爽やかさ』が求められると思っています。でも、それは演技力だけでは出せないんです。肉体的にもしっかり鍛えておかないといけない。もっと言うと、普段の生活が問われてくるんです。乱れた暮らしなんかしていれば、すぐにそういう人間の顔になる。それを教えてくれたのは、私を世に送り出してくれた師匠、勝新太郎さんでした」

当初は3カ月で終わると言われていた『暴れん坊将軍』は、その後、実に26年間も続くことになります。そして、長く続いたがゆえに、番組終了が松平さんに大きな転機を呼び込むことになるのです。

「『暴れん坊将軍』の正しく爽やかなイメージを守るためにやれなかったことができるかもと思うようになったんです」

それからは、現代劇、バラエティ、司会など新たな分野に進出、かつて寿司屋で修業した料理の腕前まで活かすことになりました。そして、その延長線上にあの松平健のイメージを一新させる「マツケンサンバ」もあったのです。

「何でも興味を持ってみることを、何よりも大事にしています。勝先生は僕の目を褒めてくれたけど、それこそ先生の目はいつもギンギラ。私が初めて結婚したときには『幸せ過ぎて目が死んでいる。もっと飢えなきゃダメだ!』と叱られたことがありました。それ以来、目が絶対に死なないように意識しています」

考えてみれば、「マツケンサンバ」であれだけ見事なダンスを踊るのに、どれほど松平さんが努力をしたか、容易に想像がつきます。そして、さぞや常日頃から自分を律していたかということも。

連載:上阪徹の名言百出
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文=上阪 徹

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