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2021.09.06 07:00

旧ソ連アルメニアの写真アプリPicsartがユニコーンになれた理由

Hovhannes Avoyan / Getty Images

1980年代初頭に、旧ソ連のアルメニアで育ったホバナス・アボヤン(Hovhannes Avoyan)は、国営のアートスクールに進むことを夢見ていた。しかし、静物画の試験で不合格となった彼は、コンピュータサイエンスという別のクリエイティブな道に進み、AI(人工知能)や機械学習を学ぶことにした。

その後の30年間で、アボヤンは3つのスタートアップを立ち上げて、売却したことで財を成し、アルメニアで急拡大しているテクノロジー分野のリーダーの一人となった。

しかし、芸術を愛する彼は自身の子供たちにもアートを追求させた。2011年のある日、11歳の娘のザラが落ち込んで彼のところにやってきた。SNSに絵を投稿したところ、厳しいコメントが寄せられて、「もうやめたい」と彼女は言い出したのだ。

「自信を失った彼女を見て、私は自分が芸術の道をあきらめたときのことを思い出した」と、現在56歳のアボヤンは話す。そこで彼は、娘の絵を上達させるためのモバイルアプリを開発した。

世界で10億ダウンロード突破


それから10年後、アボヤンの親心は、サンフランシスコを拠点とする世界最大級の写真&動画編集アプリ「Picsart(ピクスアート)」に結実した。このアプリは、世界180カ国で10億回以上ダウンロードされ、毎月1億5000万人以上が利用中だ。

Picsartはフリーミアムビジネスモデルを採用しており、基本的なツールは無料で、よりパワフルなバージョンは月額4.66ドルで提供されている。同社はデータの収集やターゲティング広告の掲載を行わないが、2021年の売上はすでに1億ドルを突破している。

そして、さらなる成長を目指すPicsartは8月26日、ソフトバンクのビジョンファンド2が主導するシリーズCラウンドで、1億3000万ドル(約143億円)を調達し、評価額が10億ドルを突破したことをアナウンスした。このラウンドには、セコイア・キャピタルやGSquared、Tribe Capital、Graph Ventures、Siguler Guff & Companyなども参加した。アボヤンは、彼の持ち分を明らかにしていないが、同社の最大の株主であり続けている。

「Picsartは、ワッツアップと多くの共通点を持つ、世界中の人々に利用されている普遍的なプラットフォームだ」と、セコイアのパートナーで元フェイスブックのマイク・ヴァーナルは話した。

Picsartは、ソーシャルメディアとデジタルコマースという、テクノロジー業界で最も影響力のある2つのトレンドに身を置いている。SNSやスマートフォンの普及により、誰もがパブリッシャーとなった世界で、何億人もの人々がPicsartをデザインに利用し、インスタグラムのフィルターを追加するような手軽さで、写真やビデオの編集や加工を楽しんでいる。

アーティストたちは、Picsartを使って、TikTokやインスタグラム、スナップチャットに投稿する画像や動画を加工している。自撮り写真を加工する人たちは、Picsartでシワや目の充血、ニキビを消したり、ウエストのラインを数センチカットして、スリムに見せたりしている。

Picsartは今やビジネス分野でも広く利用されている。世界の何百万もの個人事業者やレストラン、ローカルショップがパンデミックの中でウェブに集まる中、起業家たちはShopifyやEtsy、イーベイなどの重要なマーケットプレイスや広告で、商品の見栄えを良くするために、Picsartを利用している。
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編集=上田裕資

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