D2Cでも「インパクト」を残すには?
さらにユニークなのが、会員向けの会報誌「飛騨スポ」だ。
同社は製造業や卸売業だけではなく、ECや通信販売を通じて直接一般顧客にも商品を販売している。この「D2Cビジネス」は、他の業界ではもはや当たり前となっているが、じつは酒蔵として取り組んでいるのは珍しい。というのも、ほとんどの酒蔵は、販売店への「配慮」などから直販に乗り出さないからだ。
だが、同社は直販を重視している。だからこそ直販の購入者には、日本酒をより楽しんでもらうための会報誌「飛騨スポ」を郵送している。
「飛騨スポ」とは、あの有名なスポーツ紙『東京スポーツ』にちなんだもの。その名の通り、内容も本家『東スポ』を彷彿させるものとなっている。
飛騨スポ「UFO来店」
これまでの見出しを見ても、「衝撃写真公開!カッパ出現」、「謎のマスクマン乱入!杜氏に挑戦状」、「衝撃!妖怪タコ人間」、「都市伝説の真相、ついに解明【衝撃】妖精写真!15センチおじさん」、「飛騨上空に!龍 衝撃写真」など、本家に勝るとも劣らない、ウィットに富んだものばかりだ。
ロイヤル顧客を増やす「体験型PR」
「お客さまとの直接のふれあい」を大切にしている同社では、顧客に直接日本酒の面白さを伝えるイベントも実施してきた。それが毎年3月の「酒酵母の日」に実施してきた「蔵まつり」だ。酒蔵を開放し、日本酒のテーマパークのようにする催しだ。
2007年の開始当初はわずか400人の来訪者だったのが、2019年には東京や大阪など、全国から1万2000人を超えるファンが、飛騨の地に駆けつける大規模イベントに成長した。
従来から接点のあったファンに、リアルな場でブランドを体験してもらうことで、長期的に応援してもらえる「ロイヤル顧客」の醸成につながっている。
「蔵まつり」ステージ(よしもと新喜劇)の様子
この「蔵まつり」への渡辺酒造店の力の入れようは、尋常ではない。開催の1年前から準備委員会を立ち上げ、会場準備はもちろんこと、予算やスケジュールの管理、飲食メニューの考案、POP、チラシ、ポスター制作など、すべて社員が手がけている。
開催が近づくと、1週間近くは酒造りを完全に中断。ファンを出迎えるために、2日間かけて蔵の大掃除にも取り組む。まさに全社員が総出で準備にあたるのだ。
「蔵まつりは渡辺酒造店をより多くのお客さまに知ってもらう機会となりました。同時に、社内が一体化できるイベントでもあります」(渡邉社長)
なお、コロナ禍ではリアルな場での開催が難しくなったため、2020年からはInstagram(@sake_hourai)を使って、ライブ配信形式で開催している。