ビジネス

2021.09.02

飛騨高山の老舗酒蔵が、7年で6倍に成長した理由


コロナ禍で売上「8割減」も、アイデアで巻き返し


このように、「Sake is entertainment」を軸にPRに力を入れ、順調に売上を伸ばしてきた渡辺酒造店。だが、2020年に新型コロナウイルスという危機が突然、訪れる。

同社は元々、地元・飛騨での売上が4割近くを占めていた。それが、飲食店の休業や観光客の激減などで、この年の4、5月の飛騨市内での売上は8割の大幅減となってしまった。緊急事態宣言が明けても回復せず、夏になっても半減のままだった。

だが、渡邉社長は嵐が過ぎ去るのを耐え忍ぶのではなく、あえて攻める道を選んだ。活路を開いたのは、「地元がだめなら、海外があるではないか」という発想の転換だった。さっそく、オーストラリアなど海外の取引先と「オンライン蔵見学」を実施。これが大成功して、輸出量は前年比3倍以上に伸びた。

海外と同時に、国内の新たな販路開拓も進めた。それが「オンライン商談会」だ。

同社は決して交通の便の良い土地にあるわけではない。それゆえ、限られた従業員ではどうしても営業がカバーできない販売店もある。そんな課題が、コロナ禍で解消された。酒蔵も販売店も、オンラインでの商談に抵抗感がなくなったからだ。いわばコロナが、地方のハンデを解消した格好だ。

そうして2020年度は、終わってみればコロナ前を上回る業績を叩き出すまでになった。まさに、コロナという「逆風」を「追い風」に変えたのだった。

「将来はこの飛騨の地を日本酒のテーマパークのような地にしたい。それが私の夢ですね」(渡邉社長)

変わらず存在し続けるために、常に進化を模索する。いま、苦境に喘ぐ多くの中小企業に、最も必要な姿勢ではないだろうか。

文=下矢一良

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